障害者雇用の近未来/文献調べ25−48

前回同様、松為信雄先生の「キャリア支援に基づく 職業リハビリテーション学 -雇用・就労支援の基盤- 」の、「第15章 障害者雇用の推進」を抜書きさせてもらい、障害者雇用の近未来について考察してみます。

目次

2030年の障害者雇用

本書では、2015年から特例子会社と上場企業を対象に継続的な調査(名武他、2022 水之浦他、2022a,b)を引用されながら、5つの視点で障害者雇用の5年後を予測されています。

①グルーバルの大きな変化:働く環境や待遇が人権擁護の視点から問題視
②人と社会の大きな変化:Z世代が中心となって「利他的行動」が要請
③経営にかかる大きな変化:利害関係者は非財務情報にちゅうし始める 経営における「パーパス」の重要性や必要性が高まる
④デジタル化に係る大きな変化:AIやロボットのサポートを受けて障害者の働き方が変化する 障害者の仕事とされてきた一部がAIやロボットに代替されていく
⑤障害者の働き方に係る大きな変化:障害のあるマネージャーの増加とその任用数や仕事内容に対する社外からの評価

どれも合点のいく話ですが、特に②にある「人と社会の大きな変化」については、人事の新卒採用担当の方々からも折に触れて伺う内容です。

学生たちは、小学校のころからSDGsやESGなどの言葉と身近に生活してきており、人や社会に対する配慮に対して敏感になっているように思います。

実際に、SDGsやESG、社会貢献への会社の取り組みが、就活生の過半数が会社選びに影響するというデータもあるようです。

障害者雇用の目標

こういった近未来に向けた変化の中で、障害者雇用がどういう方向でどういう目標を掲げていけばいいのか、名武他(2022)、水之浦他(2022a,b)を参考に指摘されています。

  1. 「パーパス」に従った業務の遂行
  2. D&Iのますますの深化・定着することに伴って、一人一人の障害者の特性をさらに鮮明に把握して、その特性を伸ばす
  3. 次のようなことが整備
    ①大型化:組織が大型するとともに、それに伴うマネジメント手法が変化
    ②特性の多様化:難病指定の障害者や超短時間労働者など
    ③働き方の多様化:副業や複業、スタートアップ企業、起業などの新しい働き方が展開
  4. 非財務的な価値への貢献
  5. 障害者雇用は非財務的価値の一翼を担う。「利他的な行動」も非財務価値に組み込まれていく。
  6. 財務価値への貢献

1のパーパスについては、障害のある社員本人も、パーパスについて理解することの重要性についても述べられていました。私も共感するところです。
現在、障害者採用は「売り手市場」と表現されることがありますし、実際はそうだとも感じます。しかし、人を採用する以上、企業側も「より長く働いてもらい、活躍してもらいたい」という責任や思いも生まれるでしょう。採用要件をさらに明確化する中で、「自社の経営理念はビジョンに共感したり、貢献意欲が高い人」という選考の視点も加わってくると考えます。

また、「利他的な行動」が非財務価値に組み込まれていくという見立ても興味深く感じました。
(以前の文献調べで利他的な行動を含む「向社会的行動」について調べてみたので、参考までに貼り付けておきます)

障害者雇用は「量から質」に課題の本質が移行していますが、上記のご指摘を見る限り、経営の「質」ついても問い直されているように感じました。

ありがとうございました。

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