弊社は、企業さまで障害のある方を指導・支援する立場にある方への教育支援を行なっています。
障害のある方の定着、エンゲージメントの向上を図っていくことは非常に大切な一方で、支援する立場にある方々が「燃え尽きない」ように支援することも大切です。
今回ご紹介する論文は就労支援機関で働かれる方々を対象とした研究ですが、企業で障害のある方を支援されている方々にも参考になる部分が多いと思い取り上げさせて頂きました。
注:・抜書き ○一言
Ⅰ.はじめに
・就労支援領域における人材育成については「障害のある人の雇用・就労を支援する人材は多様だが、そのほとんどは学校在学時に、障害者雇用・就労に関する知識やスキルを学ぶことはなく(中略)すべて、卒後の実践現場に入った後のOJTあるいはOff-JTに委ねられている」(松為,2014)
・就労移行事業所の障害者就労支援従事者を対象にワーク・エンゲージメント(WE)を含めたアンケート調査を行う
・WEとは仕事にエンゲイジしている状態であり、つまり、情熱を持って働いている状態
・WEを高める要因として、仕事の資源と個人の資源があり、この両者は相互に影響しながらWEを高めているとされている(島津,2014)
○WEに関しては専門的に勉強しているけど、仕事の資源に「コーチング」「フィードバック」「トレーニングの機会」という項目は初めて見たので、資源も多様化してきているのか
・個人の資源は個人内に存在する心理的な資源であり、「心理的資本」とも呼ばれ、仕事へのモチベーションと関連する要因と考えられている。(外山,2018)
・仕事の資源は、組織全体に関連する「事業所レベル」、チームや人間関係に関連する「部署レベル」、仕事それ自体に関連する「作業・課題レベル」の3つの水準に分類することが可能であるとされている(島津,2014)
・従事者に対しWEの側面から検討することは、個人と組織も含めた事業所の両者から人材育成やキャリア形成に関して検討することが可能になると考えられた
Ⅱ.方法
1.対象
・全国の就労移行支援事業所の611名
・3355ヶ所の全国の事業所から都道府県ごと13ヶ所ずつランダムに抽出
2.アンケート内容及び改修と分析方法
・調査機関2016年2月〜4月
・単純集計及びクロス集計。
・WEについては日本語版UWESをもちいた。
Ⅲ.結果
1.回答事業所について(下表参考)
2.回答者について
・性別が 男 性134名(58.3 %), 女 性 が94名(40.9 %), 無 記入が2名(0.9%),平均年齢は42.4±10.8歳(7 名の無記入・不適切記入を除く)であった.就 業条件については,勤務形態が常勤の者は222名(96.5%),また,兼務有りが106名(46.1%)で あり,役職のある者(サービス管理責任者を除く) は105名(45.7%)
3.回答者のWEのレベル
2点取り上げます
2)事業所の研修システムと研修内容
・研修システムに関して,新人職員の研修のでは 低いレベルの群でのみ「事業所外の研修を利用し ているが,義務化はしていない」が22名(30.1%) と高かった.また,事業所の研修システムに関し ても低いレベルの群でのみ「研修システムを設定 されていない」が14名(19.2%)と他の群よりも 多かった。
・研修内容と各レベルの群の割合について表3の通り。各レベルの群間で10%前後の差があったものを太字
3)業務内容及び就労支援・人材育成の課題
(人材育成の課題のみ抜粋)
・人材育成の課題についてはレベルが低い群でのみ、「職員の処遇面」「求人の課題」が50%を超え、「キャリアの形成の課題」も18名(24.7%)と他の郡より多かった。
Ⅳ.考察
1.WEのレベルと基本属性
・役職がないものにおいてWEのレベルが低い割合が高い
・WEを高める仕事の資源には「仕事の裁量権」が含まれており、就労支援領域においても仕事の裁量権がWEのレベルに関与することが考えられた。
・既に、WEが低い方が看護師の離職意向が高いと報告されており(中村、吉岡、2016)、従事者が職場に定着してキャリアを積み重ねるためには、WEを高めることが一助になると思われる。
・従事者の仕事の裁量権を増やし、また、経営に参画する機会を持つことができることは組織側が実行可能な方法の1つであると思われた。
2.WEのレベルと事業所の研修システムと研修内容
・WEのレベルが低い群で、新人研修及び研修システムが整備されていない割合が高かった。
・仕事の資源には「トレーニングの機会」があり、研修システムが「トレーニングの機会」を保障するものと考えると、事業所における研修システムの整備はWEのレベルに影響を与えると考えられた
・WEの高い群において、研修内容で「就労支援に関する基礎的なスキル・技術」「就労支援に関する専門知識」が他の群よりも高い割合であった。
・本研究の対象である従事者は就労支援の実践者であり、現在、我が国に就労支援の国家資格はないが、「就労支援に関する基礎的なスキル・技術」「就労支援に関する専門知識」は就労支援の実践者としての専門性や誇りにつながることも考えられる。
・事業所における研修システムを整備し、研修内容を就労支援に関する専門知識やスキル・技術を充実さえれることで従事者のWEを高めることに貢献できる可能性があると思われた。
3.WEのレベルと業務内容及び就労支援と人材育成の課題
・従事者の業務内容について,WEのレベルが高 い群では「職場開拓」「企業への支援」「制度利用 の相談支援」が他の群よりも高い割合が示された.先の研修内容の結果も踏まえると,WEのレベル が高い群では受講した研修内容と業務内容が直接 関係している割合が高いことが推察された。
・仕事の資源には作業・課題レベル(普段の業務や作業に関するもの)に「仕事の意義」「役割明確さ」があり、研修の目的が業務に直接関係していることは「仕事の意義」「役割明確さ」に影響があると思われた。
Ⅴ.結語
・人材育成に含まれる要素は仕事の資源に影響を与えることが多く、事業所において人材育成について整備することで従事者のWEを高め、情熱を持って働くことに影響を与えると思われた
・同様に、人材育成の課題である「キャリア形成」も仕事の資源であり、この点に課題があると従事者のWEが高まりにくいと思われた
・就労支援をめぐる制度はめまぐるしく変遷しながらも支援を行う従事者の育成に関しては大きな変革はない
・人材育成に関するシステムの不備はWEを低くしてしまう一因に考えられる
・従事者自身のWEが低く、いきいきと誇りをもって自分の仕事ができない状況で、障害のある当事者が働くことを支援できるのかは疑問である。まずは、従事者自身がいきいきと自分の仕事ができるような状況が求められていると思われる。
一言感想
最後の文はとても共感しました。障害のある方の働きがいを高めていくのは、障害者雇用の最近の動向においても、DE&Iの潮流においても当然のものとして、それを支える支援者・相談員に対する働きかけはまだまだな気がしています。
専門性を高め、誇りをもつ教育システムの導入は絶対的に必要で、弊社のサービスのあり方そのものです。
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