対人援助職のワーク・エンゲージメントについて思う

前回のブログでは「就労支援従事者の人材育成の課題とワーク・エンゲイジメント」(大川・本多,2019)https://lnkd.in/gbWVsUQrを取り上げさせてもらいました。

自分の教員時代の経験を思い出し、徒然に追記します。

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目次

導入

いきなり余談ですが、僕の習性でついついやってしまうことがあります。

それは「何度も冷蔵庫を開け、あるはずもない”美味しいもの探し”をしてしまう」です。

これは家族から大変不評で「何回開けても、ないものはないから!」と小学生の娘にも咎められる始末です。

娘の言う通り、さっきまでなかった大好きなヨーグルトや甘いデザートなどが、突如時空を超えて冷蔵庫に現れることはありません。

でも「見落としていた何かが見つかるかも」とか「仕事の合間に誰かが何かを入れてくれたかも」という”一縷の望み”から冷蔵庫を開けてしまい、結果として夏場の貴重な”冷気”を外に逃すだけの過ちを繰り返しています。

本論

なぜこんな話をしているかは後ほど述べるとして、本題に移ります。

今回取り上げている論文が言わんとしていることを大胆に2つにまとめてみます。

  1. 就労支援従事者(これは”対人援助職”と括ってもいいかもしれません)が、いきいき働けていない状況(ワーク・エンゲージメント(WE)が低い状態)で、障害のある当事者がいきいきと働くことの支援はできない
  2. 「現場実践に直結する基礎的・専門的な知識やスキル」の学びが、従事者のWEを高める 

ということを言っているんだと思います。

調査の対象は「就労移行支援事業所」で働かれている支援者の方々ですが、一般企業で障害のある方と共に働いている方々にも同様の状況が当てはまるはずです。

何度か書いている”いつもの話”で恐縮ですが、僕は小学校教員から特別支援学校教員に転身した時、それまでの指導法や教授法といったスキルや、”人を育てる””チームを統率する”ための経験や知識が全く通用せず、戸惑いを通り越してとても落ち込んだ経験があります。

学校側も不安や焦りの穴を埋めてくれようと「新転任者研修」と呼ばれる、特別支援学校に着任したばかりの教員向け各種研修を夏前まで(ちょうど今ごろまで)頻繁に行ってくれていました。

そこでは教育に関わる法令や指導要領の中身、インクルーシブとかスクールクラスターとかの横文字、各指導領域の目的など、5秒で睡魔が襲ってくる内容が多かったように記憶しています(今振り返ると、なかなか興味深い内容なのですが、、)

その時の率直な思いは「こんな内容より、明日も登校してくる児童・生徒との具体的な関わり方とか指導スキルを教えてくれ」でした。

特別支援教育の概念や歴史はそれはそれでとても大切なものなのですが、如何せん”緊急度”が低い。
それよりも遥かに緊急かつ重要だったのが「日々の関わり方」という具体的なスキルや知識でした。

戸惑い、混乱し、これまでの教員としての自信が削られていく現状をなんとかしたい一心だったのです。

ベテラン教員に「指導法」について教えを乞うたこともあるのですが、その際よく言われたのが

「君が指導上で大切にしていることは?」とか
「関わる際の留意点を言ってみて」とかでした。

これも、今考えると僕のことを考えてくれていて、「まずは自分の頭で考えろ」と投げかけてくれている非常に素晴らしい教えなのですが、当時の僕は本当に分からないことだらけでしたので、「君の考えは?」と聞かれるたびに、何も入っていな頭の中を何度も覗かれているようで、さらに落ち込んだ記憶があります。

そう、冒頭の「何も入っていない冷蔵庫状態」だったのです。
開くたびに「やっぱ、、なんもないよな、、、」と落ち込むのです。

新人ならまだしも、10年以上教員を生業にしてきた者からすると、”頭の中が空っぽ状態”は本当に辛いことです。

少しよそいきに言うと「自己効力感」が激しく低下している状態でした。

「自己効力感」という言葉が出てきた(自分で出したんですが、、、)ので、WEに話を移します。

仕事に対するポジティブで充実した状態を表すワーク・エンゲージメント(=WE)ですが、何がそれを高めるのかというと「仕事の資源(組織の資源)」と「個人の資源」が関係してきます。

仕事の資源には「上司、同僚のサポート」「パフォーマンスのフィードバック」「コーチング」「トレーニングの機会」などがあり、

個人の資源に先ほど出てきた「自己効力感」や「組織での自尊心」「楽観性」などがあります。

お分かりかと思いますが、仕事(組織)の資源と個人の資源は相互に作用しています。

サポートしてもらうことで「自己効力感」が高まるとか、組織への自尊心が高まるので他者へのサポートをかって出るとかです。

論文では「トレーニングの機会」を”研修”と位置付けて論を展開しています。
曰く、研修によって「自己効力感」が高まり、その結果「WE」も高まるのだと。

さらにその研修は、実務に直結した知識やスキルであればあるほど、効果的のようです。

結び

対人援助とはその名の通り「人」を援助するわけですが、まずは冷蔵庫(=頭)の中身を自分含めて他者に振る舞うだけの食材(=実践的な知識・スキル)を詰め込んでおく必要があるわけです。

かつての僕のように「自己効力感」が低い状態では「いきいき働く」なんて困難で、そしてそんな人間が他者を輝かせることなんてできっこなかったです。

繰り返しになりますが、冷蔵庫の中身は、”すぐ調理可能なもの”ほどよいわけで、調理方法が分からない謎多き高級食材や用途が限定されるような秘伝の調味料などは、今すぐ必要なものではないのです。

今後、法定雇用率が高まりに合わせて「相談員」「指導員」といった方々への支援・学びの提供が必要となります。

冷蔵庫に入れべき食材は何かを吟味することが大切だなと思いつつ、今日も自宅の冷蔵庫を開けては、あるはずもない”ガリガリくん”を探すのでした。

※灼熱の熊谷に佇む自宅リビングより徒然にお伝えしました

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