文献調べ「大人の発達障害がわかる本」

編集:岩波明先生(診断と治療社)2023年

発達障害の特性、診断、治療、就労に向けた課題や対策など網羅的に書かれていながらも、非常にわかりやすい表現で読みやすいです。

以下、気になったポイントを抜書きさせていただきます。

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目次

発達障害に関する誤解

・発達障害は生来の特性であり、親や養育者による虐待などによってASDやADHDが発症することはない

・しかし、虐待などの心理的ストレスが持続的に見られることにより、ASDやADHDに一見類似した症状を生じることがある。_「反応性アタッチメント障害」「脱抑制型対人交流障害」

・ASDは過剰な記憶力や永続記憶がみられることもあり、「過去のつらいできごと」を鮮明に記憶していることが多いため、「フラッシュバック」を認めることも多い。

トラウマに対する誤解

・PTSD(心的外傷後ストレス障害/post-traumatic stress disorder)、におけるトラウマの定義は「死に至る、あるいは死に直結するような重大な出来事」

・発達障害のおいては対人関係における出来事に影響を受けやすい一軍がいるのは確かであるが、「つらい出来事」がASDやADHDの発症を導くことはない。

発症の時期

・「大人の発達障害」という呼び方が浸透している。大人になって発症すると認識している人も見かける。

・社会人になってより厳しい寛容や状況に置かれた段階において初めて問題が顕在化し、受診に至る場合があるが、大人になって発症するわけではない。

疾患か、特性か

・ASD、ADHDともに、症状とされるものは生まれながらの「特性」

・自らの努力で対応できる面や投薬により改善する部分はあるものの、本質的に変化するものではない。

・発達障害の症状は「疾患」や「障害」というよりも「特性」といったほうが 正確であると考えられる

・ただし、当事者は自らの特性をしっかりと認識することが必要で、それにより仕事・生活上での対策を立てることが可能となる。

ASDとADHD

ASDとAHDHの併存

・2013年のDSM-5より、両者の併存診断が可能となる

・ADHDと診断された患者の21%がASDを重複(Antshel,2016)

・ASDと診断された小児の28.2%に何らかのADHD症状が重複(Shimonoff)

・一方で、見かけ上類似した結果も。横断的な臨床症状からは、両者の区別が容易でない面がある

・併存した場合、機能障害がより重篤になりやすく」、社会生活の困難さが深刻となる。

症状の共通性

▷不注意

・ある状況下で注意を向けるべき対象に対し、適切に注意を持続させることが難しい。

・ADHD_注意の持続が困難。変化の少ない環境下では同じことに長時間注意を向けることに飽き、集中力が低下する傾向にある

・ASD_感覚過敏症などにより、無作為に入り込む感覚刺激を適切に処理できず、本来注意を向けるべき情報に対して反応することができない

・衝動性やこだわりの強さから、自身の興味や関心が向かないことに対しては、そもそも注意を持続させようとしない。

▷対人関係、社会的コミュニケーションの障害

・ASDもADHDも相手とのコミュニケーションにおける障害を示す。

・ASD_社会的コミュニケーションの障害はASDの中核症状。視線を合わせることが不得手。相手の立場に立った心理的理解や、感情への配慮が不得手。自身の関心とするもの以外には関わりが限局的になりやすい。交友関係においては顕著。言外のルールや状況理解が困難な結果、孤立を深めてしまう傾向。思春期において排斥行為を受けることが多く、強烈な失敗体験として認識され、社会的適応を不良なものにしてしまいやすい。

・ADHD_注意の持続が困難で、相手に視線を合わせ続けることができない。関心の低さや不注意。相手の話をきちんと聞かない習慣。不注意症状から、相手の会話に集中して耳を傾けることができず、コミュニケーションエラーを生じやすい。衝動性から「ついうっかり」状況に馴染まない発言をして、場の雰囲気を乱したり、ひとたび話しだすと止まらずに一方的に会話を続けてしまうことがある。

・感情を爆発させてしまう例も少なくない。失敗の積み重ねが対人関係を不安定なものにしやすく、表面的にASDに類似した対人コミュニケーション障害を呈する。

▷衝動性

・ADHD_診断基準にも示される基本的な症状。かっとなりやすい、いつもおしゃべりが止まらないといったレベルのものから、つい手が出てしまうという場合も。何らかの依存の対象にのめり込む例もみられる

・ASD_衝動性により問題行動はASDにおいても頻度が高い。混乱してパニックになりやすく、そのあげく衝動行為に至りやすいい。興味をもつ事柄についてはいつまでも話し続けることがあり、ADHDと区別がつきにくい。

就労

・ASD_情緒的な対人交流は不得手であるが、細部に対してこだわり、興味のあることには高い集中力をもって臨める傾向がある。

・感覚過敏を有するものが少なくないため、可能な限り刺激となる感覚に対し、予防的な対処をする方法も考えられる。大きな音に対して、耳当てや静かな場所の提供。トラブルに対する可能な範囲でのマニュアル化、突発的な事態への相談体制の充実も。

・ADHD_集中力には乏しいものの、活動的で、創造的な発想ができる人も少なくない。営業やデザイナーなどのクリエイティブな仕事に向いていることがある。

・注意すべきことを事前に換気し、見直すこと。作業環境を整備してより集中しやすくすること。優先順位がつけられない傾向もあるため、作業をリストアップして可視化し、するべき仕事を見直すことも有効。

仕事

ASDと仕事

・ASDの基本症状は①対人関係、社会的コミュニケーションの障害、②こだわりの強さ

・②については医療関係者でも十分に認識していないケースが見られる。

・こだわりの強さ、はケースによっては信念になる。仕事の現場で帰るのは難しい

・本人が意味がないと感じた事柄については、必要な業務であっても行おうとしない。適当に他の職員に合わせることができず、規則の細かい現場では問題にされやすい。

ASDの就労における留意点

▷自己認知

・自分の障害や特徴を把握すること。コミュニケーション、的確な判断が難しい。手先の不器用さから作業能力が低い。一方で、高い集中力や情報収集能力などをもっているものも多い。

・自分のことを正しく認識できない例が多い。

・経験を増やし積み重ねることや事故に対する安心感を高める。

・信頼できる他者から受け入れられる体験や、同じ悩みをもつものからの洞察、気づきが有効。

・同じ悩みをもつ当事者との関わりの中で得られることが多い。

▷見通しを立てる

・予測していなかった変化により混乱する

・自分の行動の結果を想像するのが難しい

・計画が苦手。

・仕事をするということ、自分がなにをしたらいいかわからない、という困難さを訴える

・非現実的な考えに固執する傾向

▷好かれるコミュニケーション

・克服することは困難

・どこか「愛嬌」や「幼さ」という「愛されキャラ」という側面も

・周囲が認めると同時に、当事者は、周囲に「力になりたい」と思ってもらえるコミュニケーションを身につける

ADHDと仕事

・総合職的な事務職を苦手としていることが多い。自由度の高く関心の強い業務については過剰な集中力を発揮

・仕事における困難さとして「不注意に関連」「衝動性に関連」「多動に関連」「対人関係に関連」「環境に関連」「情緒面に関連」する困難さが認められる

▷不注意

・注意機能の低下は、ケアレスミスに加え、記憶力の低下や業務遂行能力の低下につながりやすい

・長期的な仕事、興味をもてない仕事、単調な仕事は、注意を持続する難しさが現れる

・討論場面では注意のシフト、転換が難しく、混乱してついていけなくなる。マルチタスク状況に近い

・記憶の問題にもつながり、仕事の手順を覚えない、別の指示を受けると元々の仕事を忘れるなど。

・聴覚情報の記憶が苦手で聞き漏れ、聞き違いが起こりやすい。_メモを取ること

▷不注意への対策

・服薬、生活リズムなど

・昼夜のリムムの安定。十分な睡眠。早寝の習慣

・時間のかかる仕事は早めの着手。協力体制の構築

・「必要なものを忘れる」に対しては、必要なものを厳選して手元に置いておくか、常に持ち歩く

・不注意さには「メモの活用」。まずは書き込む。1箇所に情報を集約し、頻回に参照する習慣。

▷衝動性と多動

・不利な事態を引き起こすことが多い

・次と新しい仕事を始めてしまい、気づくと仕事を抱えすぎて処理できなくなる

・周囲のペースに合わず、孤立する

・話しすぎてしまうことも多動からくる。マインドワンダリングといった、思考の多動。創造性の関連が大きいというプラス面も

▷衝動性、多動に対する対策

・投薬が有効

・多動が問題となることは比較的少ない。ほんにんが 自覚して努力している。

・衝動性の問題については、本人が自覚していないことが多い。悪気なく自然に行う。

・職場での発言をできるだけしないというアドバイスも。言いたいことがあれば後で個人的に伝える

▷対人関係

・不注意症状のため、相手の感情の読み取りや社会的な合図の理解が十分でないことがある

・衝動性、多動からくる特有の行動により、他者距離ができる

・コミュニケーションミスや見落としから対人関係に苦労

▷対人関係の障害への対処

・不注意症状_ケアレスミスや聞き逃しが多く、業務の遂行に支障をきたしやすく、周囲との関係の悪化にも

・衝動性症状_衝動的な言動や行動パターンは「生意気な人物」とされてしまう。自らを顧みて行動を抑制する必要がある

▷情緒的な困難さ

・不安や抑うつ感を抱えやすく、情動面で不安定になりやすい。双極性障害と誤診されることも。

・過去の失敗から不安を抱えやすい。

・必要以上にミスをしたのではと繰り返し確認する。

・どうせ自分にはできないという思いから、意欲の低下や無力感にもつながる。

・自己肯定的な思いについては、仕事上の成功体験の積み重ね、就労を長期に継続することが重要。ある程度、本人の特性にマッチした仕事につくことが望ましい。

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ASDとADHDの類似性に関しては元来言われてきたことですが、それぞれの特性に対する理解(何が原因で「困りごと」に直面しているのか)は、サポートの上で大切ですし、その前に当事者自身の「自己理解」が前提だなとも改めて感じました。

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