文献読み「人脈作りの科学」

社会ネットワーク分析がご専門の安田雪先生が書かれた書籍。

タイトルから魅力的。以下、主だったところを抜書きします。

(・が本書からの引用)

===

目次

ソーシャルキャピタルとネットワーク

・組織には4つの資本_経済的資本・人的資本・文化資本・社会的資本(ソーシャルキャピタル)がある。

他の3つはいいとして、「社会的資本(ソーシャルキャピタル)」だけよくわからない資本です。本書には載っていませんが、別の文献からの引用として、パットナム(1993)は

人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を高めることのできる、「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴

Making Democracy Work,1993

と定義しています。

引用:内閣府NPOホームページ

・ソーシャル・キャピタルには、その性格、特質からいくつかのタイプがあり、最も基本的な分類として、結合型(bonding)と橋渡し型(bridging)というものがある。
1 結合型ソーシャル・キャピタル:組織の内部における人と人との同質的な結びつきで、内部で信頼・協力・結束を生むもの。例えば、家族内や民族グループ内のメンバー間の関係。
2 橋渡し型ソーシャル・キャピタル:異なる組織間における異質な人や組織を結び付けるネットワーク。例えば、民族グループを超えた間の関係とか、知人、友人の友人などとのつ
ながり。その繋がりはより弱く、より薄いが、より横断的であり、社会の潤滑油とも言うべき役割を果たすとみられている。

内閣府NPOホームページ「平成14年度 ソーシャル・キャピタル:豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて」

個人的な理解としては、「人と人とが織りなす関係」から生まれる産物かなと。そして、ネットワークに関して詳細に分析していながら「橋渡し型」の優位性を記しているのが本書です。

・人間関係の情報収集機能に注目する考え方。弱い紐帯こそが豊かな情報収集機能を持つ「弱い紐帯の力」(マーク・グラノヴェッター、1973)

▷人との関係には強弱がある。
▷普段会う回数が少ない人の方が、豊かな情報をもたらすという理論。
▷人間関係の情報収集力は、どのような人々を媒介できるか、社会のどの程度の範囲までを網羅できるかに依存する。

弱い紐帯の強さ

「弱い紐帯の強さ」という言葉がありますが、本書では蜘蛛の巣をメタファーに「関係性の弱さの強さ」を示しています。頑健な蜘蛛の巣と、隙間(空隙)のある蜘蛛の巣とでは得られる獲物は違います。頑健な蜘蛛の巣の方が優れていそうですが、隙間があることで、より多様な獲物にありつける可能性もあります。
人と人とのネットワークに関しては空隙による情報収集能力の高さがあります。

・「パーソナルネットワークに遠方の人を数多く含んでいる管理職は昇進が速い」(シカゴ大学ビジネススクールのロナルド・バート教授が、米国の大手情報機器メーカーの管理職284人を対象にした調査から得た理論)_遠方とは社会的な距離の大きさ

・同じ会社でも違う職場、違う部署、違う職種、異なる年代、人種、性別、学歴など「違う」属性を持ち、「違う」場所で異なる仕事をしている人々との関係を重視する管理職ほど、昇進が速い。

↓あるメーカー管理職のパーソナルネットワークの典型的な構成

・A社管理職のパーソナルネットワークには2つのタイプ_

 1 ネットワークの構成者相互に密接な関係があまりない
 2 誰か特定の1人を中心として相互に密接な関係

評価されるのは1のタイプ。

・日本のホワイトカラー社員のネットワークにおいても、多様な人々、自分とは異なる要素を持つ人々との関係が重要な役割を果たす

→社内で「リーダーシップがある」「常に新しい情報をもっている」として挙げられた社員のパーソナルネットワークは、相対的に大きく多様性がある。

・非主流派に属している者にこそ、多様な人々によって構成された多様なネットワークを持つ人が必須。(バート教授)

・管理職が分散的多様型ネットワークを維持するには

①異なる立場(年代、性別、学歴、職種、雇用形態など)の人々とのコミュニケーション能力②行動力と寛容性

をもつことが必須。

ここでは管理職のネットワークに着目しています。「ダイバーシティ」がどこでも叫ばれていますが、多様なネットワークを持ち、コミュニケーション能力や行動力、寛容性に長けた管理職は社内での人望も厚く、また出世も早い様です。

人望が厚いことはさらなるネットワーク構築を可能にする資質であり、「いい人はどんどんネットワークを広げる」という優位性を有すことになるのでしょう。

職場意識とネットワークの関係

↑職場意識、相談のネットワークおよび情報交換のネットワークの構造特性の相関係数。

※大きさ=ネットワークに含まれている人数
※組織規定度=ネットワークの中で、社内の組織構造により規定された、直上と直接の部下が占める割合。組織が規定するフォーマルな関係がネットワーク内部に含まれている割合。例:相談ネットワークの5人のうち、1人が直接の上司、1人が直接の部下であれば、割合は40%

・相談のネットワークに直属の上司・部下を含む割合が高い者・情報交換のネットワークが大きいものほど、職場に対する意識が肯定的。

・相関係数が示唆するものは

①相談ネットワークは組織規定度が、情報交換のネットワークは大きさが、従業員の職場意識と密接に関わっている
②情報交換のネットワークが大きいほど、職場帰属意識や職場に対する肯定観が強いこと
③相談のネットワークの組織規定度が高いほど職場帰属意識と職場に対する肯定観が強いこと

・相談の本質は支援依頼。相談関係は相談する側と支援する側の間の非対称な関係。

・相談ネットワークは組織の指揮命令であり責任と権限の系統で規定された直接の上司あるいは部下との関係に埋め込むことが合理的。

・相談のネットワークを一方的に拡大すると、他者への一方的依存度を高めるだけ。

・一方で、情報交換のネットワークは構成人数が多ければ多いほどよく、相手が誰かを問わない。

・情報交換は対等な互恵関係。

・情報交換のネットワークが大きいということは、他者に対して有用な情報を発信する能力があるという証左でもある。

・情報交換のネットワークが大きいほど、会社を重要視し、学歴に関する昇給・昇格への公正観が強く、企業への帰属意識も強い。

・情報交換のネットワークは、上司、同期、社外の人へと世代が上がるごとに広がる。→20代は社内、30代は同僚、40代は社外、50代は部下へと緩やかに変容。

非常に興味深いデータでした。個人的には本書のクライマックスです。業務に関する「相談」相手を直属の上司や部下にしている人ほど、組織に対して肯定的な態度を示すというものです。指揮命令系統に従って上下の関係で相談をするのは合理的ですし、合理性に従うことで解決への糸口が見つかりやすくなります。

「上司は自分の問題解決の支援をしてくれる」という思いが組織への愛着など、肯定的な職場意識に繋がるのはうなづけます。

ここでいう「情報交換」は業務の解決支援というよりも、「多様な選択肢の提供と獲得」でしょう。他組織の方々と情報交換をする中で、相手のネガティブ情報を受け取ると「改めて、自分の会社っていいなぁ」なんて思う瞬間もあるかもしれません。それが「企業への帰属意識」を強めていくのかもしれません。

私自身は組織に属していませんから当てはまるところ当てはまらないところありましたが、総じて思ったことは、静的なネットワークの一端にいるのではなく、動的なネットワークのハブにいる必要があるということでした。

組織に属していないからとはいえ、「誰と組むか」は非常に大切ですし、依存的にネットワークにぶら下がるのではなく、ネットワーク間を繋ぐ役割を担える様な「動的」である必要があるなと感じました。

個人的にネットワークを図示しながら、「この人に依存しているな」と思うと意図的に離れていく「癖」があります。これはある意味で「ドライ」なのですが、ネットワーク分析からすると合理的な行動な気もしました。

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