「reasonable accommodation」の和訳が「合理的配慮」とされる際に、多くの専門家が異議を唱えたそうですが、正直なところ、私自身は言葉の意味の深い部分を理解していませんでした。研修やセミナーにお声かけいただく中で、「これじゃいかん」と思い、本質的な意味はどこにあるのかを探っているところです。そんな中で、合意形成学(勁草書房,2011 著:猪原健弘)にコンセンサスとアコモデーションの比較をした章があり、「accommodation」の意味を考えるには非常にわかりやすいので、抜書きさせてもらいつつ、考察します。
合意形成のモデルと方法
コンセンサスとアコモデーション
・合意をコンセンサスと捉えると、議論などを通じて関係者の根底にある多様な価値を顕在化させ、相互の意見の一致を図る過程という意味でのコンセンサス・ビルディングと理解されることが多い(Susskind and Cruikshank,2006)
・一方、現代社会における合意形成は、意見の一致というよりむしろ、さまざまな価値観が共存・共生し不安定の中で安定が達成されている状態と特徴づけられるかもしれない。
・さまざまな価値観が並立しながらそれぞれが他を受け入れている状況を、アコモデーション(accommodation)と呼ぶ(Checkland,1999;出口・木嶋,2009;木嶋,.1996.2000.2005)
・アコモデーションは、結論・結果が移転に収束しているという意味でのコンセンサス達成の状況とは異なる。他者の価値観が、自らのそれとは違っていることを認め、理解した上での共存であり、漢語の、求同存異(意見の一致点を求め、相違点は残す)、和而不同(和睦しながらも意見の違いに妥協しない)といった熟語は、これに近い考え方である
・人間が関与する限り常にまとわりつくコンフリクト(対立)や意見の食い違いはそのまま存在するとしても、その対立を、異なる見解を持つ人々が「ともにことに当たろう」とする状態の一部として取り込んでしまう状況。
・アコモデーションは、併存する価値観の緩い結合(ルース・カップリング)状態である。
・システム全体をリードする役割を担う主体は固定的ではなく、それぞれの場面において異なった価値観が主導権を取る
・アコモデーションは相互学習、相互理解により探索されると言われる(Checkland,1999;出口・木嶋,2009;木嶋, 1996.2000.2005)
・関与者それぞれが認識する世界や環境に関する近くをディベートや自由討論等で互いに表明しすり合わせ、その過程で、自分とは異なる世界観をもった他者の立場・考え方を学習し理解する。
・不可逆的なダイナミクスが展開され、絶えず不均衡が存在するので、その中にゆらぎが発生する。情報や責任等の重なりにより、冗長性が存在し、これが対話とコミュニケーションを促す。アコモデーションとは、異種の情報が融合し、発想を固定化しない多様な価値観が共存する状態と言える
所感
「合意形成学」から「accommodation」の意味を見てきましたが、言葉そのものに「D&I」の概念が内包されているように感じます。
”求同存異(意見の一致点を求め、相違点は残す)、和而不同(和睦しながらも意見の違いに妥協しない)といった熟語は、これに近い考え方”
とありますが、「相違点は残し、意見の違いに妥協しない」という意味では、本来的なD&I(DE&I)と同じ意図を感じます。
とすると、「reasonable accommodation」とは、組織内において「適理的」に「求同存異」な状況を取り込むというものなのかなと、イメージできます。
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