事例性と疾病性 

自社で働いているチャレンジド(障がいをもつ従業員)と関わる上では、職場においてさまざまな配慮や工夫をしながら協働されていることと思います。

今回は「配慮」の中でも重要な考え方である「事例性と疾病性」を一緒に考えていきましょう。

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「配慮」にもいろいろ

「配慮」の形もさまざまであり、例えば車椅子ユーザーが職場内を行き来しやすいように通路を確保したり、一般社員に手話講座をして聴覚障害の方々とのコミュニケーションを促進したりなど、ハード面もしくはソフト面の「配慮」があります。

また一方で、体の不調を訴えてきたチャレンジドに対して、その訴えの中にあるどの部分に重点をおいて対応するのかといった、「配慮の範囲」もあるでしょう。

前者において、ハード面(設備面)を行き届かせたとしても、ソフト面(関わり方やコミュニケーション)が疎かになるといい職場とは言いがたくなります。

これは障害のあるなしに関わらず、社員が口を揃えて「いい職場」という場合、その理由の筆頭は「円滑なコミュニケーション」があると思われます。

これは学校教育における「合理的配慮」が議論された折にも

より本質的な問題はソフト面であろう。ハード面ではなく、まず、ソフト面の議論をしないといけないと思う。

合理的配慮について特別委員会における意見等(文科省)https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1299381.htm

と指摘されている通り、「配慮」の本質がハード<ソフトであると認識することが重要です。

一方、後者(配慮の範囲)においては、例えば「体調不良が続き、遅刻が増えている」という状態の社員に対して、「体調不良」に配慮するのか「遅刻が増えている」に配慮するのかといった課題があります。

障害のある方とこれまで接することがなかった人たちにとっては「配慮」というのは実はとても難しい概念のように感じます。

私自身が、小学校の教員から特別支援学校の教員へと身を転じたのちに「一体、どう関わればいいんだ」と日々途方に暮れた経験があるので、よくわかります。

特別支援学校はハード面においては、障害のある児童・生徒が生活しやすいように十分に配慮されているものです。でもそれで「教育」が成り立つかと言えば全くそんなことはないのは想像に容易いでしょう。

また、不調の訴えやいつもと違う様子に対しては、どういう対応をすればいいのか迷うケースもありました。

ここで大切になってくるのが、今回のタイトルにもある「事例性と疾病性」という考えです。

事例性と疾病性

この概念自体は、メンタルヘルス領域において多く用いられるものではありますが、障害者雇用の現場においても役にたつ考え方です。

厚労省では、以下のような説明がなされています。

事例性とは業務を推進するうえで困る具体的事実で、「就業規則を守らない」「仕事の能率が低下している」「同僚とのトラブルが多い」など関係者はその変化にすぐに気がつくことができます。一方、疾病性とは症状や病名などに関することで、「幻聴がある」「統合失調症が疑われる」など専門家が判断する分野です。

こころの耳(厚労省):https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1592/

つまりは

事例性・・・客観的事実

疾病性・・・医学的判断

ということです。

では職場において、どちらを配慮する必要があるのでしょうか。

これに関しても「こころの耳」では以下のように示されています。

職場での問題把握の第一歩は、病気の確定(疾病性)以上に、業務上何が問題になって困っているか(事例性)を優先する視点が求められます。

障害に関しては障害種も多様ですし、それに付随した個々の困り事も多様です。

ですから、不調を訴えてきたチャレンジドに関わる方々が「何の障害の、どういった症状が今問題になっているんだ?」と困惑してしまうのです。

しかし、疾病性を把握したところで対応力が高まるかと言われるとそうではありません。そもそも、疾病性を判断することは、素人では無理です。

例えば、我が子が熱を出した時、、、

身近に例えると、自分の子供が高熱を出して「寒い」「喉が痛い」と訴えていたとします。

親の役割として大切なのは、「インフルエンザ」か「コロナ」かといった病名を判断することよりも「寒い」という言葉に対してあったかい服を着せたり毛布をかけたり、「喉が痛い」という言葉に対して水を飲ませたりトローチを与えたりという対応の方が明らかに優先されます。

そのあとで、病院にいって医師のしかるべき判断のもと、医学的な治療に移行します。

身近な例だと「当たり前」なのでしょうが、職場では何を優先的に対応していけばいいのか判断に困ることが多いはずです。

ですから「事例性」を優先させるという「対応の範囲」を明確にしておく必要があるのです。

職場で関わる方々の心得え

チャレンジドと関わる方々は、きっと社内でも「気配り」ができて優しく、またご自身の業務も円滑に行える優秀な方がほとんどだと思います。

ですから余計に「全部自分が対応せねば」という思いが強くなっていはいないでしょうか。

1人が対応できることは、実はそんなに多くないですし、こと「疾病性」に関してはスムーズな医療との連携が必要となります。

また「事例性」に関しても、周りを上手く巻き込みながら「面での対応」が必要になります。

何かしら皆さんのご参考になれば幸いです。

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