障害者雇用の「質」向上で図る、ワーク・エンゲイジメント/文献調べ 25-02

障害のある人と共に働く中で、サポートを求めやすい職場になったり、その人にあった仕事の創出をしようと工夫する風土が醸成されたりといった、「働きがい」を高めるきっかけが生まれることがあります。

今回は「障害のある労働者の心理的健康度向上に向けた配慮の在り方 -ワーク・エンゲイジメントに注目してー」(小田切・森・田中,2020)の抜書きと、最新のポジティブメンタルヘルスの研究から、障害者雇用がワーク・エンゲイジメントを高める可能性について考えていきます。

目次

障害者雇用政策の2つのアプローチ

近年、企業で雇用されている精神・発達障害者の数は、増加の一途です。一方、障害者雇用に限った話ではありませんが、雇用あれば離職もあります。発達障害、特にASD(自閉スペクトラム症)者においては、対人関係や仕事に対するモチベーションなど、仕事に直結しないが就労生活に間接的に関連した内容に関する問題が、離職理由として挙げらます(梅永,2010)。

そもそも、障害者雇用政策の「機会創出・拡大」のアプローチには、「障害者差別解消法」もしくは「法定雇用率制度」の2パターンがあります。(工藤,2008)

「差別解消法」のアプローチは1990年制定のADAが代表例です。近年では、世界的に機会均等と人権保障に重きを置き、労働市場への積極的な参加を目標とする施策に転換しているようです(O’Reilly,2007)。

「法定雇用率」によるアプローチについて、その強制力は各国ばらつきがありますが、ドイツやフランス、アジアの多くの国で導入されています。

2つのアプローチの違い(工藤,2008)として、「労働市場」の観点では以下が挙げられます。

差別禁止→間接的介入。企業が障害者を雇用した際に個々の状態に合わせた職場環境改善を強制

法定雇用率→直接的介入。雇用することに強制力。職場環境の調整や改善は自主判断

つまり、従来の日本型の「法定雇用率」のみによるアプローチにおいては、障害のある人が活躍できる職場づくりについて言及されておらず、雇用の「量」に力点が置かれていました。

しかし2013年の「障害者雇用促進法」の改正で、法定雇用率の引き上げに加えて、障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務が追加され、「質」の向上を求めるようになりました。

参考までに、アメリカのADAでは、「合理的配慮」の内容を

①施設へのアクセシビリティ②職務の再編成③パート化または労働時間の変更④空席職位への配置転換⑤機器・装置の取得・改造⑥試験・訓練教材又は方針の変更⑦朗読者や通訳の配置

などの対応の重視と定め、提供がない場合には差別に該当する(工藤,2008)とされます。

働きがいの視点

これら労働環境の整備は、「働きやすさ」が高まるものであり、日本でも早急な実践が望まれるものであることは間違いありません。

一方で、ハーズバーグは、職場環境のような 「衛生要因」は「不満足の低減」にはなりますが、仕事への「満足度」は職場環境の改善では充足されず、「動機づけ要因」が別に存在しているとしています。

その「動機づけ」に関し、産業精神保健分野における、労働者一般の心理的健康度向上に向けた取り組みとして「ポジティブメンタルヘルス」が注目されています(廣,2016)。

そして、ポジティブメンタルヘルスを実践する上で重要な概念が「ワーク・エンゲイジメント」です。

ワーク・エンゲイジメントとは「仕事に誇りを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て活き活きしている」心理状態であり、ワーク・エンゲイジメントの高い従業員は心理的苦痛や身体愁訴が少ない(Schaufeli&Bakker,2010)と考えられています。

ワーク・エンゲイジメントの向上に影響を与える4つの因子も明らかになっていて、「ソーシャルサポート」「自主・自立」「学びと成長の機会」「フィードバック」です。

「ソーシャルサポート」については、近年、サポート内容よりも誰からのサポートなのか(サポート源)に注目した研究が増加しています。(例:上司のサポート、同僚のサポート)

また、別の研究においては、「今の仕事は働きがいがある(仕事の意義)」「今の仕事は自分に合っている(仕事の適性)」「仕事を通じて自分の強みを伸ばせている(成長の機会)」といった個人の作業レベルでの職場環境・業務性質が良いと、ワーク・エンゲイジメント向上につながる可能性があることもわかりました(小田切・森,2018)。

ワーク・エンゲイジメントとの関連

ここで、もう少しワーク・エンゲイジメントについて掘り下げます。

ワーク・エンゲイジメントと健康との関連について調べた研究では、例えば

・抑うつの低さ(Imamura et al., 2016; Innstrand et al., 2012)、不安の低さ (Innstrand et al., 2012)が、ワーク・エンゲイジメントの高まりと関連があることが明らかになっています。

また、パフォーマンスとの関連では、ワーク・エンゲイジメントが高いと

・従業員のパフォーマンスと顧客のロイヤルティ (Salanova et al. 2005)、疾病休業日数の少なさ (Schaufeli et al. 2009)、が高まることが明らかになっています。

ワーク・エンゲイジメント向上に資する4つの因子は先ほど挙げましたが、それ以外に生活習慣との関連では

・魚食、運動、睡眠などの「良好な生活習慣」Nishi ,2017) )
・昼食時の積極的休養(Michishita et al.,2017)

などが挙げられます。

今後の障害者雇用において

今後は、雇用の「質」の向上おtして、勤続年数や心理的健康度にも着目し、「働き続けたくなる会社づくり」に向けた配慮や職場環境整備が行われる必要があるとされています。この取り組みへの姿勢や職場風土が、すべての労働者の働きやすさ・働き続けたいという意欲の向上にも好影響を及ぼす、と考えられています。

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