行動の背景を考える 〜平等と公平は何が違う〜

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平等と公平

「障害理解」というテーマで企業のD&I(DE&I,DEI&B,I&Dと企業によって捉え方や範囲がさまざまですが「ダイバーシティ領域」とご理解ください)研修に携わらせていております。

ここでは、拙著「障害のある方と共に働く」の中心テーマである、障害のある方々が能力を発揮して可能性を広げられるように、指導や支援に関わる方々に「関わり方・仕事の教え方」の前提として知っておくべきことをお伝えしています。

障害があろうがなかろうが、みな等しく接してもらうのが1番いいのですが、みなが等しく付き合う「平等」がすなわち「公平」ではないことが少し理解を要するところです。

平等と公平の違いをうまく表した有名なイラストがあります

引用:「日本セクシャルマイノリティ協会」さま

左は「Equality=平等」、右は「Equity=公平」です

左は、背の高い人も、背の低い人も、1つずつ”平等”に箱を用意されています。

結果として、背の低い人は野球観戦ができず、いじけているような後ろ姿に見えます。

右は、背の低い人には1つ、もしくは2つ、の箱を用意し、皆が同じ目の高さで野球を観戦できています。

これが「平等」と「公平」の違いです。非常にわかりやすいですよね。

DE&Iが何を示すか、この記事を読んでくださるような方々には釈迦に説法ですが、

D(Diversity) E(Eqyity) I(Inclusion) (ちなみにB(Blonging)を加えている企業もありますね)

Eは「公平」なんですよね。「平等」ではなく「公平」というのが深いです。

上記のイラストの大きな違いですが、1番右の人が何に困っているのかを周囲が”把握しているかいないか”だと感じます(イラストが本来意図しているところとは違うかもですが)。

「平等に接する」という考え自体はとても大切ですし必要なのですが、画一的な対応は状況の凸凹をより立体的に表現することにもなります。

誤解を恐れず言うと、「平等」とは相手の立場や背景を理解しなくても一方的に定義づけることができ、提供することもできるのです。

これは”マジョリティから見た「平等」”とも言えるのではないでしょうか。

一方で「公平」というのは、「その人が何に困っていて、何に困難さを抱えているか」という状況把握から始まります。

そして、周囲との差分を埋める手立てを提供することで、凸凹をならしていくのです。

”マイノリティの立場に立って”理解することが前提としてあるように感じます。

氷山モデルで考える「内側」

「その人が何に困っているか」を考えることが「公平」への第一歩です。

障害のある人たちが表出している部分(行動、言動など)の背景には、心の中でのさまざまな要因が複合的に絡み合っているという理論です。

例えば、みんなの前で1分間だけスピーチをするという課題を課した際に「私、そんなことできません」と、頑なに拒む人がいたとします。

その方の頑なさに障害名と重なり合うと、途端に関わる人たちは「障害特性」としてその人を捉えることになります。

しかし、表出している行動面の一部に「障害特性」が影響している場合はあっても、全部ではありません。

そこには、その人がこれまで経験してきたこと、重ねてきた思いや気づき、周囲の関わりや環境なども影響してきます。

私はここはとても大切だなと思うのが、「障がい者」は「障がい者」である前に「人」ということを忘れてはいけないと思うからです。

たとえば「自閉スペクトラム症」の診断を受けた人には、時に「強いこだわり」が出る場面があると思います。だからと言って「強いこだわり」があるから「自閉スペクトラム症」だと勝手に周りが判断すると、「障害だから仕方ないよね」という思いと共に、関わる範囲が限定的になってしまうのです。

上図:拙著「障害のある方と共に働く」より

共に働く人たちが「行動変容」に関与できる領域

他者の気づきや記憶は変えられません。認知の歪みは「認知行動療法」などで変容していけますが、一緒に働く人たちにそういった専門スキルを求めることは困難です。

障害特性も、服薬やトレーニングで改善が図れますが、職場の人たちが医学領域のサポートをすることはできませんし、SSTなどを業務に組み込むことも現実的ではないでしょう。

我々のように共に働く人たちがサポートできるのは「環境整備」であったり「状況の把握」であると思います。

つまり、人が行動を促せるような精神面や構造面での配慮をすることです。

例えば、情報の伝え方を工夫するためにイラストを用いて聴覚・視覚情報の両面を用いるとか、作業に集中しやすいように、余計な情報が入らないような環境を提供するとか、もし不適合な行動が現れた際も「障害だから」ではなくて、「何が背景にあるのか」を一緒に考えてあげるとかです。

「あ、私には無理、だって障害のことよくわからないもの」とか「なんだかよくわからないので、とにかくやれることは全て支援するわ」といった過剰な放任か過剰な支援というのは、もしかすると「障がい」というバイアスが強く影響しすぎているのかもしれません。

共に働く上で、相手の「内側」。氷山モデルでいう水面下の葛藤を知っておくことが「公平」に関わることの基礎になるなと考えます。

なにが「障がい」となっているか

全国103の企業で働く障害のある方680人を対象に行われた、「希望実現度」・「職務満足」と「離職意図」の関係について調べた研究があります。(2007,若林)

そこで明らかになったことは、就職時に希望した条件や就職後に必要とした配慮が実現していないこと(希望の非実現度)が「離職意図」を高めるのではなく、その人たちの感じ方・考え方である「職務満足度」を媒介して「離職意図」につながっていたということでした。

「離職意図」に影響する「職務満足度」の下位要素は障がい種別によって違っており、例えば
・肢体不自由の方であれば「仕事の達成感」や「同僚」が「職務満足度」に影響
・内部障害の方であれば「労働条件」が影響
・知的障害の方であれば「上司」が影響
していることが明らかになっています。

繰り返しになりますが「障がい者」と言っても、職場で何が「障がい」となっているかは障がい種別によっても異なりますし、「人」それぞれでも違ってきます。

それぞれが抱える「障がい」が何かは画一的ではありません。一人一人の声に耳を傾け、可能な配慮を提供することで、能力を引き出し、仕事に対するやる気を高めていくのでしょう。

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