文献調べ 24−3
障害を開示して就職した高学歴発達障がい者の就労課題に関する研究(福井ら,2021)
・高学歴発達障害者の一般就労については、コミュニケーション、人間関係、仕事のマッチングに加え「周囲からの期待を負担に感じる」という課題がある。
・障害を開示して就職している高学歴者に職場定着に可能なヒントがあるのでは
・本研究の目的は、周囲からの期待が高すぎるという課題の解決に対して好影響を与える項目を明らかにする
方法
・就労移行支援から一般就労した高学歴者(大卒以上)13名。
・アンケート調査
(詳細略)
考察
・就職前に「知識が活かせる」「仕事がわかりやすい」「人間関係がいい」「仕事が興味深い」等、仕事上の情報を収集して就職していた
・障害の開示先は「上司を含む多数の社員」が最も多い
・以上から、仕事上の課題については就職前に情報収集し、当事者にとって就労しやすい環境整備が整えられていたと推察
・相関分析結果として
「周囲の期待を負担に感じなくて済む」に対して「コミュニケーションがとりやすい」「自分のペースで仕事ができる」「肩身の狭い思いをしないで済む」「病気のことをいわれなくて済む」「賃金や昇進で不利な扱いがない」の5つが正の相関。
○個別の考察
「コミュニケーションがとりやすい」について
・職場定着において一見作業能力が高くコミュニケーションができていそうにみえていながら働いている本人は、職務遂行上の悩みを抱えており本人のキャパシティを超え同僚や上司からの期待がプレッシャーになるケースがある(小川,2015)
・広汎性発達障害において、「自分の特性の理解・受容」とともに「コミュニケーション」が課題となる
・発達障害者は、他者との意思疎通という面にストレスが高く、感情を必要以上に不快に捉えてしまう傾向。コミュニケーション方法については、対人態度の改善の検討が必要(JEED,2017)
「自分のペースで仕事ができる」について
・自閉スペクトラム症のある人は「いつも通りの仕事のやり方を維持したい」という思考があり、指示内容の変更に従うことができない場合がある(吉川,2019)
・「仕事の難易度を考慮してもらっている」「一人で休憩できるスペースが設置されている」など、作業遂行に適した支援が必要。
・本人の作業能力と仕事内容がミスマッチとならないように、あらかじめ仕事の内容や経過について打ち合わせをしながら進める必要がある
「肩身の狭い思いをしなくて済む」について
・ADHDは周囲に理解されにくく、努力不足、性格の問題、言い訳といった叱責が重なり、自己肯定感が低く、学習性無力感を抱えるものが少なくない(霜山,2018)
・自閉スペクトラム症の就労者では、他者の話の意味がわからず、自分もうまく話せないといった困難さから周囲から孤立し被害者意識が高まる(三木,2017)
・対策として、上司だけでなく、周囲が本人の特性を理解することが重要。本人の同意を得て、同僚に本人の障害特性を説明する機会を作ると不満の解消につながる。(永田,2016)
「病気のことを言われなくて済む」について
・仕事を続けるために雇用者側が障害特性を理解し配慮ができることが大切。事業所は病気を抱えながらも働ける雰囲気を持続させることが大切(吉塚,2002)
・当事者には本人の働きたいという強い意欲がある。就労の可否に影響する最も大きな要素。(田川,2010)
・「悩んでいることを聞いてもらえる」「面談を行ってもらえる」など、病気や障害に対する相談が常にできるような就労環境が必要。
「賃金や昇進が不利な扱いでない」について
・高学歴者の場合には、職場定着が進むと賃金や昇進といった入職時にはなかった新たな課題が出てくる可能性がある。
・入職後に自身が仕事に馴れ、周囲の人々からの配慮が少なくなっていく過程に生じやすい。
高学歴者にとって、周囲からの期待が高すぎることを解決するために期待される職場環境
▷職場内でのコミュニケーションが良好で、対人関係が良好
▷肩身の狭い思いや病気のことを過度に気にすることなく仕事がしやすい
▷自分にあった仕事が自分のペースで可能
▷将来の賃金や昇進についても前もって相談しやすい
○一言所感
発達障害の方の1年後の定着率は、他の障害種別と比べると高いと言われています。発達障害の方の雇用を検討したり、実際に雇用されている企業もおおくあると思います。その中で「高学歴」という「期待感」が本人の負担となるケースを考えました。
興味深いのが、職場に馴れた後に「賃金や昇進」といった新たな課題が出てくる点。今後、発達障害の方の活躍が広がる中で意義ある点かなと感じました。
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