文献調べ 24-4

書籍・論文を読んで重要だと思う箇所を抜き書きしています。今回は以下の2冊。

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「障害の社会モデルの批判的検討と障害の政治/関係モデル―障害のポリティクス」加藤旭人

・障害学_障害を理論的に把握する視座を探究してきた。障害という現象を社会理論として定式化する作業を経て、障害の社会モデルという視点を生み出した。

・障害の社会モデルは、身体的機能の制約であるインペアメント(損傷)と障害者の経験する社会的障壁であるディスアビリティ(障害)を区別

・インペアメントがディスアビリティに結びつくとは限らない。

・インペアメントとディスアビリティが結びついている場合には、両者を結びつける何らかの社会的要因が存在すると捉える。

・社会モデルの意義は、障害の個人モデル/医療モデルの前提とする障害者本人への働きかけや個人的努力とは異なり、差別を生む社会を変革することによる障害をめぐる不利益の解消の方向性を示す点。

・批判として
 ▷社会モデルが十分に障害者の経験をとらえていない(Morris,1991)_インペアメントとディスアビリティの二項対立的な理論設定がインペアメントの経験を把握することを妨げている

・批判に対して2つの立場
 ▷インペアメントとディスアビリティの区別を曖昧にすることは、医学モデルの拒否を困難にし、優先課題を不明確にしてしまうという、社会モデルの重要性を改めて強調する立場(Barnes,1998)
 ▷現象学やポスト構造主義理論によって障害の社会モデルを拡張しながら、障害学の多元化をめざす、より柔軟な方向性(Hughes and Paterson,1997)

・批判的障害学(Critical Disability Studies)_障害者の生きられた経験に固有の政治、厳格な唯物論の観点からは理論化することの難しい障害者のエイジェンシーを制約しうる複合的な社会文化的な諸要素」(Meekosha and Shuttleworth,2009)

・アリソン・ケイファーは、障害の社会モデルに代わり、障害の政治/関係モデル(political/relational model of disability)という視座。

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「障害者の経済学」 中島隆信

・障害者雇用促進法の指針_職業生活を営むことの困難さという現実問題に注目して障害者の範囲を規定。(対象者は手帳の有無ではない)

・正社員は無期雇用という性質上、労働契約の中身について不明確なことが多く、長時間労働につながりやすい。それゆえ、うつ病や精神障害者は正社員として不向きという間接差別に。

・間接差別への対処は「配慮」。特に対象者それぞれの特性に目を向け、適切な働き方を提示するソフトウェア型の配慮。

・差別解消につながる働き方とは“適材適所”。仕事の中身と必要となる能力の対応を明確にする。

▷仕事に必要な能力を有しない人を採用しないのは差別ではない。空気を読む能力が欠かせない営業職に自閉スペクトラム症の人を採用しないのは差別に当たらない。

▷提供すべき配慮の中身が明確になる。配慮とは“適材”を“適所”に配置し、能録を最大限に発揮してもらえる職場環境を整備すること。

「合理的」の意味
・障害者差別解消法の「合理的配慮」は、「障害をもつアメリカ人法(Americans with Disabilities Act of 1990:ADA)を参考。” reasonable accommodation”

・“合理的”という文言がはいっている理由には、配慮にコストがかかるから。_ソフトウェア型の配慮は“過重さ”の判断が難しい

・ある障害者への配慮が歓迎されても、他の障害者には無駄な(むしろ差別を感じさせる)こともある。

・そのため、厚労省の指針には「個々の事情を有する障がい者と事業主との相互理解のなかで提供されるべき」と書かれている。つまり、配慮のコストは客観的に把握しづらく、どのレベル以上が過重と判断されるかも分かりにくいので、当事者同士が話し合い交渉によって決めるようにということ

・経済的に考えれば、配慮のレベルが低いのは、一般人にとって配慮のコストが高いため。必要なのは現代人の経済面/精神面のゆとり。

・弱者を作らない環境整備を明確に示しているのが“比較優位の原則”_職場ではオールラウンドプレーヤーが求められがちであるが、全体最適ではない。比較優位性のある生産に特化させることが全体最適。弱者を生産の場から排除することは、共生社会の実現といった人道的見地からも望ましくないし、限られたリソースを効率的に活用するという経済的見地からも得策とはいえない。

・法定雇用率の落とし穴_分母と分子はそれぞれ別の母集団情報に基づき、別々の手法で推計された数字。

・障害者雇用率は他の先進国に比べて低いが、障害者率も低い(社会モデルの認知度が未だ低い)

・今後、法定雇用率をヨーロッパ並みにあげていくのであれば、障害の定義も見直していく必要がある。

○一言所感

「障害者の経済学」は障害者雇用に関わるおすすめ書籍では必ずといっていいほど取り上げられる1冊です。遅ればせながら拝読いたしました。
コスト面で各施策を評価しているのは興味深かったですし、「比較優位の原則」から環境整備を考える視点は、読んでいて「おもしろい!」と唸りました。個にフォーカスしすぎるきらいのある障害者活躍の文脈において、職場・組織という「全体感」においての最適を目指すという視点は、置き去りにはできないなと感じました。良き学びをありがとうございました。

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