協調的行動はどこからくる?

「ソーシャルキャピタルと経営」金光淳著 

その中に「関わり合う職場における協調的行動」という章が興味深かったのです。

ポイントを抜き書きします。

そもそもソーシャルキャピタルの定義と特徴から

目次

ソーシャルキャピタルとは

「ソーシャルキャピタルとは、個人、集団に利用可能な善意(goodwill)であり、その源泉はアクターの関係の構造と内容に存し、その効果は当のアクターとって利用できる情報、影響、連帯性からくる(原文ママ)」(Kwon&Kwon,2002)

少し難しい定義なのですが、一言で言うと『善意』ということですね。

特徴として7つあるようです。

7つの特徴

  1. 他のすべての資本と同様に(不確実だが)将来の利益の流入を期待して他の資源が投下しうる長期的な資産であること
  2. 他の資本と同様に転用可能で、兌換的であること。ただし経済資本への兌換率は流動性と「粘着性」のために、かなり低いこと
  3. 他の資本と同様に他の資本と代理的、補完的なものであること
  4. 他の資本的資本、人的資本と同様に、しかし金融資本と異なりメンテナンスを必要とすること。ただし物的資本と異なりその償却率は予測し難く、人的資本と異なり使用によって価値が増すこと。また文脈的変動によって陳腐化しやすいこと。
  5. きれいな空気、安全な街と同じく、ある形態のソーシャル・キャピタルは公共財であること。
  6. 他のすべての資本と異なり、アクターに内在するのではなく、社会関係に存在すること。
  7. 経済学者が「資本」と呼ぶ他の資本と異なり、量的な尺度になじまないこと。

ガラスのように脆くも尖った資本?とでも言うのでしょうか。

さて冒頭で「善意」と捉えましたが、組織の中で「善意」として働くのが「協調的行動」だとすると、それは何が要因で引き起こされるのでしょうか

関わり合う職場における協調的行動

・近年の日本における労働者の働き方は、組織あるいは職場といった集団で働くあり方から個人で働くあり方に変化。例えば成果主義的評価の進行や目標管理制度の導入

・個人で働く働き方は、組織や職場における協調的行動を減らしていく。

・協調的行動が組織や職場において怒らないことは、結果的には組織全体、職場全体の有効性を低くしてしまう可能性がある(Katz&Kahn1978:鈴木2013)

・組織とは、共通の目標を持ち相互にコミュニケーションを取りながら協働する個人の集合(Barnard,1938)

・組織を維持したり、組織の仲間を助けたりするような行動は組織の有効性にとって重要な行動である(Katz&Kahn,1978)

・協調的行動をもたらす要因は、組織全体に関わる要因や職場に関わる要因、個人に関わる要因など多様な要因が協調的行動をもたらすことを指摘(Smith,Organ&Near,1983;George&Jones,1997;田中,2001)

・協調的行動≒OCB。表面上の行動は同種だが、「やらなければ自分の仕事が進まない」「共有する目標が達成できない」という背景から本質的には異なる行動。

一旦まとめ

ここまで一旦まとめてみます。

協調的行動とは、誰かの仕事に手を差し伸べることでしょうから、組織においては重要な行動であることはその通りです。よく聞くのがOCB(組織市民行動)ですが、完全なる善意がOCBだとすると、利己的なのが協調的行動だとしています。

・仕事の相互依存性とは「集団のメンバーが与えられた仕事を有効にこなすために依存し合う程度」(Van der Vegt al.2001)

・これまでは
①仕事の技術によって規定される相互依存性
②目標やフィードバックのあり方などによって規定される個人が知覚する仕事の相互依存性
と捉えられてきた。

・情緒的コミットメントの効果_協調的行動を間接的に促進。

・直接効果_仕事の依存性は支援行動に影響。目標の相互依存性は情報共有行動に影響。

・間接効果_支援行動は仕事の相互依存性に影響。情報共有行動は目標の相互依存性に影響。2つの協調行動をもたらす主たる相互依存性が異なることが示される。

・情緒的コミットメントの高い群、低い群ともに、仕事の相互依存性が高まることで支援行動が促される。情緒的コミットメントが高い人ほどより支援行動を行う。

・仕事の相互依存性から直接もたらされる支援行動は、情緒的コミットメントによってもたらされる支援行動を相殺する訳ではななく、より行動を促す。

・集団凝集性が高い職場と中程度の職場においては、目標の相互依存性が高い人ほど支援行動を行う。集団凝集性が低い職場ではその効果はあまり見られない。

・低い目標の相互依存性状況では、低い集団凝集性の職場の方が支援行動を起こしやすい。

まとめ

書籍では考察として以下が示されています

・仕事における相互依存性は、2つのメカニズムで支援行動を促す

①仕事における相互依存性によって、職場や仲間への愛着をもたらし、そのことがお互いを助ける行動につながるといった行為に基づくメカニズム

②仕事における相互依存性が直接支援行動に結びつくメカニズム

・情報共有有行動は、好意と好意以外の2つのメカニズム

→好意以外のメカニズムで最も考えうるのは、「他者を助けなければ自分が困る」という利己的な理由

・ビジョンや理念を浸透させ、コミットメントを高めるような組織レベルのマネジメントより、個々の職場において仕事を相互依存的にデザインし、職場内での凝集性を高めることの方がより現実的であり、それぞれが職場レベルで実践できること。

最後の一文はとても面白い、大胆に割り切った話だなと感じました。ビジョンや理念の浸透ではなく、マネジメントによって協調的な行動を促した方が現実的だよということですよね。会社のビジョンや理念はもちろん大切ですが、経営者ならまだしも、各社員が日々の業務の中で意識するものではありません。雰囲気や風通しというものも同じかもしれませんが、互いが完全に意識して初めてコミットメントが成立させるのは”長い旅路”です。

ですが、無意識化で互いが依存し合わないと仕事が前に進まないような仕組みをつくることで、利己的ではあれ「協調的行動」を生み出すというのは、とてもドライではありつつも非常に現実的だなとも思いました。

さて、追記としてダイバーシティについて触れている部分があったので紹介して、今回の記事を終わりにします

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・ITの影響によって「チームの協力関係が自然発生しにくくなる」「バーチャル化が進むと協力が起こりにくくなる」「新しいアイデアやイノベーションを生み出すには、さまざまな知識や考え方が必要になるが、多様性を高めても、旧知の仲といえるメンバーが少ないチームほど、知識共有が起こりにくい」「さまざまな分野からの高い専門性を持つ人が多いほど、非生産的な対立に陥りやすい」

→解決策として、シニアマネジャーがシニアマネジャーが人間関係に投資し、自らのコラボレーションで模範を示し、「ギフト・カルチャー」とよぶ組織文化を作ることで、チーム・メンバーが協力して仕事を行うようになる(Gratton&Erickson,2007=2009:2-33)

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