発達障害の1つである自閉スペクトラム症(以下、ASD)ですが、例えば「空気を読む」とか「気持ちを伝える」といった社会性やコミュニケーションが苦手だったり、興味や行動や活動に限局があったりします。「絡みづらい」とか「融通がきかない」といった誤解を受けやすい特性があります。
また、その他「感覚過敏」といった特性もあり、近年注目を浴びているものです。
私たちもやたらとうるさい環境や、眩しすぎるライトの下だと、仕事や勉強に集中できないのは容易に想像がつきますが、「感覚過敏」のある方は、そういった生きづらさを抱えていらっしゃるといえます。
「聴覚過敏」の方で、エレベーターのブザー音(今のエレベーターではあまり聞かないですが、ドアが閉まる際に「ブー」と鳴る音)を嫌がる場合があります。多くの人からすると、さして気にならない音ですが、大きく不快な音として耳に入ってくるのかもしれません。エレベーターに近寄ることすら嫌になる人もいました。これらがサポートによって緩和できると、「働きやすさ」や「生きやすさ」につながるはずです。
さて、この「感覚過敏」はなぜ起こるのかについて、マウス実験で明らかになってきています。
感覚過敏のなぞ
ASDモデルマウスを使った興味深い実験により、「感覚過敏」の脳内の状況が明らかになってきています。
マウスのかわいいおヒゲですが、マウスが周囲の環境を把握する上で重要な「触覚」を担う部位です。
ヒゲで受け取った刺激が脳内に伝わり、情報処理されるのです。1本のヒゲを刺激すると、脳内の特定の神経細胞群が反応し、それ以外の神経の反応は抑制されます。つまり「興奮」と「抑制」のバランスをもって、適切に情報を処理するわけです。
しかしASDモデルマウスは、特定の部位だけでなく、周辺の神経細胞が反応してしまっていたのです。本来は「抑制」されるはずの神経が「興奮」することで、ノイズとなって感覚情報が処理されるようなのです。まさに「過敏」に反応しているのです。
脳の変化とセロトニン
ではなぜ、周囲の必要のない神経細胞群まで反応しているのでしょうか。つまり「抑制」が起きるべき部位で「抑制」が起きない理由はなんなのかということですが、ASDモデルマウスの脳内を調べると「抑制性細胞」が減少していたというのです。この細胞の減少により、本来は抑えられるはずの部位が過剰反応することで「音が大きく聞こえる」「光がやたらとまぶしくなる」ということに繋がっていると考えられます。
そして「抑制性細胞」の減少は神経伝達物質である「セロトニン」の減少が関係していました。
セロトニンは気分や睡眠などの脳機能にも関わってきますし、脳の発達期には神経栄養因子として働いています。うつ病の予防でも「セロトニンを増やすために朝散歩しよう」なんてことも聞くことがありますね。
そして、マウス実験ではセロトニンの働きを強める抗うつ薬(SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害剤)を投与すると、セロトニン量が増え、抑制性細胞の減少も改善したのです。
さらにそのマウスは、他のマウスに近づかないといった「社会性障害」や、鳴き声の発達の遅れといった「コミュニケーション障害」も改善したようです。
セロトニンを増やす
セロトニンを増やすにはどうすればいいのでしょうか。これらは定型発達の方々にも「心の安定」と言う意味では必要な行為です。
具体的には、朝日を浴びる、軽い運動をするなどが挙げられますが、「食事」も重要です。
「脳腸相関」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。ASDの方は胃腸や睡眠の障害を併発することがあります。腸内環境を整えることは、胃腸の働きをよくするだけでなく、脳の働きもよくするのです。
「トリプトファン」を積極的に摂取する。具体的には、大豆製品、乳製品、魚、肉を摂ることです。そうすることで「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」のバランスが整うと言われています。
ぜひご参考にされてみてください。
参考
https://www.riken.jp/press/2017/20170622_1/index.html
http://www.brainscience-union.jp/trivia/trivia1357
「心の病」の脳科学(林、加藤,2023)
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