知的障害者の一般就労を考える/文献調べ

(本記事は24年12月9日の更新されました)

知的障害の方を積極的に採用する企業もいると思います。一般的に、知的障害の方の能力として「定型業務を黙々と続けられる」「素直で実直な姿が、他の社員にも良い影響を与える」といったことが明らかになっています。

一方で、就職の手前でつまづく人や、就職した後で継続に課題がある人もいらっしゃいます。その要因は何か、考察していきます。

目次

知的障害者への支援の観点

社会的な偏見として根強くあるのは、知的障害者を「成長、特に社会的成長の可能性が低い存在」と捉えることでしょう。そして、雇用を続けてもらう上での一番の問題は、知的障害者の「非社会的行動による職場不適応」です。

知的障害者の就労継続の成功事例では、支援者が、職業スキルのみならず社会的成長を見据えて支援を行っていることが明らかになっています。

「社会的成長」による成果としては、支援者ー被支援者の人間関係の進展、環境への働きかけと操作する能力の発達、が考えられます。

「社会的成長」を支援することで、知的障害者と支援者の関係性を高めるだけでなく、周囲の人たちの「成長の可能性が低い」という偏見を払拭しているとも捉えることができます。

「コンピテンス」について

知的障害者の能力について、コンピテンス(White,1959;1963)の視点で考えてみます。

コンピテンスとは
「本能的もしくは生得的かつ学習的に、環境を自らの選択によって効果性を有する方向へと操作する能力」
であり、

  •  環境を操作する能力
  •  全ての人間が生得的本能、学習の結果として備える
  •  主体と環境との相互作用とフィードバックという力動的関係のうちに発達、また退化
  •  効力感の蓄積が認められる場合にはコンピテンスは発達し、認められない場合には発達が中断されるか退化

ものです。

周囲の人間との交互作用は「社会的コンピテンス」と呼ばれるます。知的障害者の人が、支援者からの支援を引き寄せるコンピテンスは、全生涯を通して重要なコンピテンスの1つ(Ainsworth and Bell 1974:99)と考えられます。

就労・継続就労に成功している知的障害の方達には、就労の過程においてコンピテンスの発達が見られます。そして、そのコンピテンスの発達を促したのは、効力感をいだかせ続けることに成功してきた支援者たちの存在があるのです。

知的障害者の行動を「コンピテンス」として捉える

1:コンピテンスから発信したシグナル

 環境に適応するシグナルとして、「問題行動」が考えられます。
「問題行動」は自己調整行動であり環境不適応を訴えるシグナルと捉えられます。

2:就労・継続就労の成功要因としてのコンピテンスの発達

 知的障害者が働くことを通したコンピテンスの発達事例として

  •  職業能力・就労意欲の発達
  •  客観的・肯定的自己認識の発達
  •  社会化の成長発達
  •  自立生活を営む意欲の促進

があるようです。これらコンピテンスの発達をもたらす支援の要因としては

  •  知的障害者は働けるという信念
  •  就労は成長発達をもたらすという信念
  •  就労を通して自立できるという信念
  •  同伴者としての支援姿勢
  •  情愛的な絆

が挙げられます。相手や自分の支援への「信念」の存在感が大きいように感じます。

3:就労・継続就労の失敗要因としてのコンピテンスの発達阻害

 一方で、コンピテンスの衰退・発達阻害として

  •  就労意欲の喪失
  •  就労同期の形成阻害
  •  肯定的・客観的な自己認識の発達阻害
  •  社会化の成長の衰退

が挙げられます。コンピテンスの発達を阻害する支援としては

  •  支援者の都合・信念を第一義とする支援
  •  知的障害者の就労に対する消極的な信念
  •  ”途方にくれる支援者”の存在と支援者を支援する環境や制度の不在

があるようです。支援とは「被支援者の目的達成のための手助け」でもありますので、支援者の都合を優先させるのは支援とは言えないでしょう。一方で、支援者も孤独です。支援の正しさは、日々の研鑽や苦労を積み上げて実感していくものでしょうが、その積み上げの過程で「支援疲れ」が生じてしまうことはよく聞きます。

要約と結論

以上より明らかになるのは、

  • 適切な支援でコンピテンスが発達すれば。一般就労およびその継続は成功する可能性が高い
  • 適切な指導がなく、コンピテンスの発達が阻害されたり衰退したりすれば、一般就労およびその継続に失敗する可能性が高い

ということでしょう。

一言感想


支援者を支援する環境や制度の必要性がちらりと触れられているが、非常に重要な論点と考えます。障害者雇用は障害者が主体である一方で、伴走者である「支援者」が必要不可欠なのは言うまでもありません。障害者に目を向けすぎて、支援者を孤立させたり孤軍奮闘させすぎたりして、共倒れにならないような制度の確立が急がれます。

参考:「知的障害者の一般就労に影響を及ぼす要因の解明」(陳,2007)

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