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陳 2007
知的障害者の一般就労に影響を及ぼす要因の解明
以下、抜粋と気づきなど
<問題の所在>
・知的障害者の一般雇用問題研究目的は大きく2つ
①現在の問題の明確化 ②知的障害者の就労支援の方法、あり方を探る こと
・以下の視点が不足していると考えている
▷就労及び継続の要因としての知的障害者自身の社会的成長
▷社会的成長促進を主眼とした具体的支援の方法論
・知的障害者を「成長、特に社会的成長の可能性が低い存在」として前提していることを危惧
・継続の最大の障害が、非社会的行動による職場不適応の問題
・成長をもたらした支援プロセスには、就労の過程で社会的成長を示した
・就労継続の成功事例では、支援者が、職業スキルのみならず社会的成長を見据えて支援を行うことが観察される
・社会的成長の2つの成果 ①支援者ー被支援者の人間関係の進展 ②環境への働きかけと操作する能力の発達
・環境への適応、適応しやすい条件の創出、の双方の調整に成功したものが長く環境と共存する
<キー概念としての「コンピテンス」>
・提唱者はWhite(1959;1963)
・「本能的もしくは生得的かつ学習的に、環境を自らの選択によって効果性を有する方向へと操作する能力」
▷環境を操作する能力
▷全ての人間が生得的本能、学習の結果として備える
▷主体と環境との相互作用とフィードバックという力動的関係のうちに発達、また退化
▷効力感の蓄積が認められる場合にはコンピテンスは発達し、認められない場合には発達が中断されるか退化する
・環境には生物環境と非生物環境がある。
・周囲の人間との交互作用は「社会的コンピテンス」と呼ばれる
・支援者からの支援を引き寄せるコンピテンスは、全生涯を通して重要なコンピテンスの1つ(Ainsworth and Bell 1974:99)
・「人が、生物環境および非生物環境との関わりの中で成長し、自ら意志・目的をもって環境に働きかける能力」
・就労・継続就労に成功している知的障害者達には、就労の過程においてコンピテンスの発達が見られる
・彼らにコンピテンスの発達を促したのは、彼らに効力感をいだかせ続けることに成功してきた支援者たち
<研究方法>
・本人、家族、福祉的就労現場の代表者、職場の同僚、企業経営者など25名
・半構造化面接調査方法
・対象者の語りのテクスト分析
<結果と考察>
1:コンピテンスから発信したシグナル
▷環境に適応するシグナル。問題行動は自己調整行動。環境不適応を訴えるシグナル
○支援者の共感・感動を引き出すシグナル
▷よい人間関係を構築する行動
▷短い挨拶に込めた愛情表現
▷被支援者からの支援者への理解
▷支援者への生きがいの提供
2:就労・継続就労の成功要因としてのコンピテンスの発達
○事例に見るコンピテンスの発達
▷職業能力・就労意欲の発達
▷客観的・肯定的自己認識の発達
▷社会化の成長発達
▷自立生活を営む意欲の促進
○コンピテンスの発達をもたらす支援の要因
▷知的障害者は働けるという信念
▷就労は成長発達をもたらすという信念
▷就労を通して自立できるという信念
▷同伴者としての支援姿勢
▷情愛的な絆
3:就労・継続就労の失敗要因としてのコンピテンスの発達阻害
○事例に見るコンピテンスの衰退・発達阻害
▷就労意欲の喪失
▷就労同期の形成阻害
▷肯定的・客観的な自己認識の発達阻害
▷社会化の成長の衰退
○コンピテンスの発達を阻害する支援
▷支援者の都合・信念を第一義とする支援
▷知的障害者の就労に対する消極的な信念
▷”途方にくれる支援者”の存在と支援者を支援する環境や制度の不在
<要約と結論>
・以上より明らかになるのは、知的障害者は適切な応答を受けてコンピテンスが発達すれば一般就労およびその継続は成功する可能性が高いが、反対に適切な応答を受けられずにコンピテンスの発達が阻害されたり衰退したりすれば、一般就労およびその継続に失敗する可能性が高い
一言感想
支援者を支援する環境や制度の必要性がちらりと触れられているが、非常に重要な論点と考える。障害者雇用は障害者が主体である一方で、伴走者である「支援者」が必要不可欠なのは言うまでもない。障害者に目を向けすぎて、支援者を孤立させたり孤軍奮闘させすぎたりして、共倒れにならないような制度の確立が急がれる。
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