発達障害について考える(自閉スペクトラム症編③)

前回までは、自閉スペクトラム症の特徴や困りごとについて考えていきました

自閉スペクトラム症①  自閉スペクトラム症②

今回は、困りごとに対して職場や周りがサポートできることについて考えます。

目次

4つの困りごとと、4つの配慮

前回の記事からのコピペですが、自閉スペクトラム症の方が職場で仕事をする際に直面する困り事は共通していて、主に4つあると言われています

  • 実行機能の問題・・・仕事を進めることができない。予測的に考えることができない
  • 対人コミュニケーションの問題・・・コミュニケーションの失敗で、仕事内容を誤解する
  • 感情コントロールの問題・・・気持ちが不安定になる
  • その他の問題・・・やる気が感じられない、居眠りをする、など

この4つの「困り事」に対する配慮も、4つありました

構造化

仕事の流れを作る

視覚化

文字や図や絵などで情報を与える

積極的関与

定期的に関わりを持つ

具体性

曖昧な指示はしない

それでは、これら配慮や支援の4つについて、1つずつ考えていきましょう

構造化

構造化は”ASDの人が環境(その場の空気を含む)を理解しやすくする”ことです。

特別支援教育でも「TEACCHプログラム」と呼ばれる考え方がありますが、「構造化」の源流だと認識しています。

例えば我々が重要な会議に出る場面を想定してください。

参加メンバーの顔ぶれや表情、議題、果たすべき自分の役割から「重い空気」を感じることがありますよね。

また、メンバーには自分の仕事がありますから、あまり会議が長引くことは好ましくないです。1人がベラベラと話し続ける状況は避けないといけません。

さらには会議には手順・進め方が暗黙のルールとして存在します(明文化されているケースもありますが)

そしてそして、会議の1番重要な目的は、「何かを『決める』こと」です。決してみんなで集まることが目的ではありません。

この「空気を察する」「相手の気持ちになる」「順序立てて物事を進める」「重要点をおさえる」といったことがASDの方は苦手です。

実行機能や対人コミュニケーションの問題に関わる部分です。

そこで「構造化」の出番なのです。

「構造化」には4種類があります。(なんか、色んなものが4種類で混乱しますね、、)

では見ていきましょう

物理的構造化

”空間と活動を対応させる”のが物理的構造化です。

小さい頃「ベッドでお菓子食べない!」とよく親に注意されましたが、「寝室は寝るところ」「ダイニングは食べるところ」など、空間によって活動が分けられています。

ASDの人は「意味」を理解するのが苦手ですが、例えばマットの上におもちゃやクッションがあれば「ああ、ここはクッションにもたれ掛かりながらおもちゃで遊ぶとこなんだな」と理解を促すことができるのです。

先の会議の例でいうと、「会議室」を常に使うことでASDの方も「この部屋は話し合いをするところ」「大事な話があるんだ」という意味を理解していくのです。

スケジュール

いつ、何をする、次になにがあるか、というスケジュールを一緒に考えるのも支援です。

ASDの人は、順序立てて物事を進めたり、予測したりするのが苦手だからです。

例えば「報連相を徹底しなさい」と指示したとします。

「報連相」が「報告・連絡・相談」だと言葉では理解したとしても、一体「報告・連絡・相談」のどれを徹底するのか、さらには「徹底する」とはどういう状態なのか、どうすれば「徹底したこと」になるのかもなかなか理解しづらいものです。

そこで「報連相」と言わずに「報告」だけに絞ってみます。これでだいぶスッキリします。

その上で「お昼前の11時40分になったら、午前中にやったことを◯◯さんに報告する」

「17時になったら、1日の活動を◯◯さんに伝える」など、「いつ」「誰に」「何を」をスケジュールに組み込んでおくだけで、見通しを立てることができます。

また、指示系統を1本化しておくのも大切です。いろんな人がいろんな指示を出すと混乱するので、立てたスケジュールを関係者と共有できるといいです。

ワークシステム

作業の流れがわかるような環境や空間を整えることも、実行機能への支援につながります。

ものづくり大国の日本では、ものづくりの現場でよく見られるものかもしれません。

例えば、「組み立てたものはこの箱に入れる」「部品や工具ごとに箱の色を変える」などがそれです。仕事の流れが、空間を見ただけである程度理解できるような工夫が、ここでいうワークシステムです。

視覚的構造化

物理的構造化やワークシステムにおいても「視覚」を用いた支援と重なる部分があるのですが、目で見てパッとなんだかわかることはASDに限らず我々にはとても意味を理解しやすいものです。

例えばピクトグラムなんてのは具体例として分かりやすいですね。

ピクトグラム=誰でも意味が理解できるような、簡略化されたデザイン 例:トイレのマーク

会議室にグラウンドルール(1人が話しすぎない、人の話は最後まで聞く、否定しないなど)を掲示しておくとは、アジェンダごとの終了時間を予め記しておくなども視覚的構造化です。

また、感情のコントロールが難しい方もASDには多いですが、自分の感情を温度計に準えて表現する方法もあります(感情認識トレーニング)

楽しいや不安や怒りを視覚的に捉え(例えば、今は怒りが30、喜びは10など)て理解していくのです。

自分の気持ちを理解することで、コントロールする方法まで考えていけるのです。

視覚化

視覚化については、構造化の中にある「視覚的構造化」と重なる部分もあります。

空間に意味を与えるために視覚支援を用いるのが「視覚構造化」ですが、ここでの視覚化はもう少し広い概念です。

ASDの人は話を聞いただけで内容を理解することが難しい場合があります。これは、話の大事な部分よりも自分の気になった言葉に気持ちが持っていかかれたり、そもそも話をする相手や内容よりも目についた物が気になって聞いていなかったり。

そこで、指示の内容を文で伝えることも視覚化です。メモやメールで仕事の内容を指示するのです。

積極的関与

「聞きたいけど聞けない」「質問したいけど、質問の仕方がわからない」という思いになる人がいます。

また、細部が気になってしまい仕事が前に進まなくなる人もいます。

「分からなかったら聞きに来てね」という「分からないこと」が分からないというケースもあります。

それにはASDの人からの働きかけを待つのではなく、こちらから仕事の進捗を確認したり、休憩を促したりすることが大切です。

過集中により、一つの仕事が終わると電池が切れたかのようにぼーっとする人がいます。そういう方に「少し別室で休みなさい」と声をかけてあげます。

また「空気を読むのが苦手」ということは何度も触れていますが、空気を言葉に変えて説明してあげるのも積極的関与です。

ASDの人は、全く悪気なく一方的に話続けたり、痛い指摘をしたりします。その場合は「一旦話し終えたら静かにしよう」とか「人の顔や体のことについて、言葉に出さない」などを具体的に伝えることも必要です。

具体性

曖昧な表現が苦手というのはASDのよく知られた特性です。「構造化」のスケジュールと類似しますが「何を」「どのくらい」「いつまでに」「できたら誰に伝える」「終わったら何をする」を具体的に示すと理解ができます。

例えば「ゴミを拾っといて」と指示されたとします。1つだけゴミを拾ってゴミ箱に捨て残りの時間は休憩していた人がいるとしましょう。その方にとっては「ゴミを拾っといて」という指示には従ったことになりますが、指示した側からすると「なんで休んでんだ!ゴミ拾いしとけって言っただろ!」と怒ってしまう原因になります。

ここで、指示した方は「ゴミを拾っといて欲しい=部屋を綺麗にして欲しい」という期待も含んでいますが、ASDの人には読み取りにくい含意です。

さらには「え?ゴミ拾えって言われたから拾ったのに、、、」とASDの人の肯定感や気持ちを下げてしまう可能性もあります。

「床に落ちているゴミを10個拾ってくれるかな。終わったら、報告に来てください。」

と具体的に伝えることで、やることとやった後のことまで理解できるのです。

まとめ

さて、いかがだったでしょうか。自閉スペクトラム症の方の職場での困りごととそれに対する配慮や支援についてみてきました。

配慮のポイントは、空間の調整だったり、指示の仕方の工夫だったり、関わり方の工夫だったりしました。これはASDではない人にも心地よい空間でありわかりやすい指示でもあるのです。

つまりは、発達障害の方への配慮を考えることで、職場全体が働きやすくなるのです。

ぜひ、ご参考にされてください!

参考:「公認心理師のための「発達障害」講義」北大路書房、「職場の発達障害 自閉スペクトラム症編」講談社、「自閉スペクトラムのおはなし」平凡社

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