文献から学んだことや重要なポイントなどを抜き書きしています。本日は3本。
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「障害者雇用における合理的配慮」中央経済社
○障害に対応した職場における必要な配慮
<知的障害>
概念と由来
・初期の学術用語は「精神薄弱」を使用。その後「精神遅滞」を使用
・近年は世界的な表現として「知的障害」「知的障害のある人」が使用
・定義は「知的機能及び、たくさんの日常的な社会的、実際的スキルを包含するところの適応行動における顕著な制限である。この障害は18歳以前に始まり、後天的な理由に拠らない。」(AAIDD)
特性
代表的な研究として
・レビンは、固執的な行動、融通性にかける行動、精神k能の未熟さを正確構造の未分化と捉える。
・ウェルナーは、視知覚実験における結果から、当該物を見極める「図と地知覚」に困難があることを
した。
・ジーマンらは、一連の学習実験から、課題となる刺激に対する「注意力の欠陥」が学習を遅らせる原因であることを確かめた。
・エリスは、記憶に関する研究から、記憶の刺激痕跡が弱いため、さまざまなことが連続すると記憶を保持し結合してゆくことに困難が見られる。
・ルリアは、言語系活動が不活発であり、「抽象と一般化」「言語の行動調整機能」に問題が見られると主張。
・クラウセンは、生理心理学的な研究から、能の働きによる「覚醒機能」の問題から行動状の問題が起っている。
とした。
行動特徴
・すべての者が「行動がのろい」とは言えない。素早い場合もある。
・すべての者が「融通が利かない」とは言えない。融通を利かせる場合もある。
・すべての者が「記憶力が弱い」とは言えない。正確な優れた記憶が見られる場合がある。
・すべての者が「発達することが見られる」。
・すべての者が「身体発達が悪く、短命である」とは言えない。
・すべての者が「抽象的な理解は難しい」が教育は可能である。
・すべての者の才能は適切な集団の中の人間関係によって発展されられる。
(小杉長平「精神薄弱者の行動特徴」『精神薄弱ー職業へのアプローチ』,1975)
「精神薄弱の特徴なんて実はないのではないでしょうか」(原文ママ)
雇用上の問題事項
知的障害者の雇用に先駆的に取り組んだ大山泰弘は、職場に迎え入れる際に問題となる事項について以下のように整理した。
・飲み込みが悪い
・体の動作がにぶい
・機転、応用がきかない
・作業環境、人間関係などになじみにくい
・体力がない人が多い
・日常生活、身辺の処理などが自分でできない場合が多い
・意思表示ができない
・挨拶ができない
・働く意欲に欠けている
・親の過保護から必要以上の干渉に迷惑する場合がある
一方、優れている面として
・陰日向なく一生懸命働く
・1つの仕事を根気良くやってくれる
・真面目で出勤率や作業態度はよい
・反復、単純作業に適し、耐える力がある
(大山、1982)
「合理的配慮指針」の内容
「合理的配慮指針の別表」では、「採用後の配慮として5項目」が示されている。
・業務指導や相談に関し、担当者を定めること。
・本人の習熟度に応じて業務量を徐々に増やしていくこと。
・図等を活用した業務マニュアルを作成すること。業務指示は内容を明確にし、1つずつ行う等作業手順をわかりやすく示すこと。
・出退勤時刻・休暇・休憩に関し、体調に配慮すること。
・本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること。
職場において配慮すべき内容
合理的配慮の提供や拡大・充実の経験が十分でない事業所においては、以下のことから配慮していくことが必要
①安定した業務遂行への支援
・職場への通勤、指導者、業務の決定
・本人に適する説明や伝達方法
・数や文字の扱い
・事故防止や安全に対する教育
②職業生活に関する相談支援
③就業継続に向けた支援
・安定して仕事ができるようになっても時間の経過と共に幾つかの問題が起こってくる。
・仕事への慣れや同じ作業の繰り返しが長期化することなどにより、意欲の低下が見られる。
・年齢が相応する様々な興味を持った結果、生活リズムを崩してしまい、勤務状態が悪化する。
・そうなると、生活支援とは別に仕事の面からも「やる気」を維持できるような配慮が重要。
・単調な作業は達成感を失う可能性がある。
・習熟度に応じて複雑な作業や判断を要する作業を担当させる、仕事の範囲を広げたり、能力開発の機会を与えたり、新しい役割を担当させることが考えられる。
・自分の働きに自信が生まれ、周囲から必要とされ、期待されていると感じることができて、やる気が生まれてくると考えられる。
・本人の興味を踏まえて、話し合いながら決める。
・「新しい役割」の中には「後輩社員への指導」「何らかの賞や資格への挑戦」なども含まれる。ステップアップの機会を与えることは向上心を引き出し、それを目指すことで職場が活性化するとされている。
・就職してから数ヶ月、数年後の不調や不適応の要因の1つとして、社内の人事異動がある。作業指導や相談担当の社員んとの安定した関係を失い、そこから得られていた調整が得られなくなる大きな契機になると考えられる。
・この問題の予防・解決は、特定の担当者にすべて任せるのではなく、職場全体で支援体制が取れるようになること、いわば、だれでもそうした役割を果たせるようになること
・職場の「ナチュラルサポート」の実現
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「アメリカにおける援助付き雇用の進展ーナチュラルサポートを中心にー」 石渡
・アメリカで重度障害者の「働く権利」を保障するため、「援助付き雇用」という手法が開発された
・3要素として「有給の雇用」「統合された職場」「継続的援助」
・援助の中核に位置するのがジョブコーチ
・「インクルージョン」という概念がますます注目されている。「真の共生」「コミュニティ・インクルージョン」が実現されなければならない。
・近年、障害者がジョブコーチに頼り切り、自分で判断し、同僚との適切な人間関係が築けないことになってしまっている。
・Nisbet(1988)は問題点として「職場からいかにして手を引くか」「ジョブコーチの存在が同僚の反感を買って協力してもらえなくなる」「援助が度を越すと障がい者に屈辱感を与える」「長期間の1対1での援助は費用がかかりすぎる」
・そこで注目されているのは「ナチュラルサポート」
・Inge(1997)は「ナチュラルサポートとは、実際に働く場でごく自然に生まれる職場支援と呼ぶことができよう」と定義
・「職場支援」とは、障害者に仕事を教える役割を担当する同僚からの援助だけではない」と強調
・Trach(1997)はより広義に捉え
1) 組織的な支援
2) 物理的支援
3) 社会的支援
4) 訓練的支援
5) サービス的支援
6) 地域支援
に分類
・小川(1993)は「他の従業員からの援助を引き出していくこともジョブコーチの重要な仕事である。周囲からの自然な援助の形成が、ジョブコーチが職場から撤退するための条件となる」と指摘。
・ナチュラルサポートの手法を積極的に活用し、さまざまな援助を、地域や職場の人々と協力して行うような体制を整備すべき
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「ジョブコーチとナチュラルサポート」小川浩
・援助付き雇用の発展経緯において、ナチュラルサポートの概念が強調され始めた理由を整理すると
1) ジョブコーチが職場から引いていくフェーディングを行うためには一般従業員からの援助が不可欠であること、
2)しかしジョブコーチの存在が一般従業員からの援助を妨げる要因になりがちなこと、
3) さらにジョブコーチの存在が障害のある人と一般従業員との社会的関係の障壁にさえなりがちなこと、の3点が挙げられる。
・ナチュラルサポートの定義を再考すると、地理的範囲は職場における問題に限定して考えることが妥当。援助内容については、物理的支援は含まず、あくまで人的支援に限定した方が整理しやすい。
・我が国の現状と照らし、ジョブコーチにとって理解が容易と思われるナチュラルサポートの定義
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ナチュラルサポートとは、障害のある人が働いている職場の一般従業員 (上司や同僚など)が、職場内において(通勤は含む)、障害のある人が働き続けるために必要なさまざまな援助を、自然に若しくは計画的に提供することを意味する。これには職務遂行に関わる援助の他に、昼食や休憩時の社会的行動に関する援助、対人関係の調整なども含まれる
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・2つのカテゴリーに分類すると
(1)自発的サポート_一般従業員から自発的に提供。内容は「手助けする」「教える」「指示する」などの直接的サポートと「褒める」「励ます」「微笑む」などの心理的サポートに分けられる。しかし、日々の従業員の動き、仕事の忙しさ、職場の雰囲気などによって必要な時に必要なサポートが得られるとは限らないことが欠点。
(2)計画的サポート_ジョブコーチと会社とが事前に打ち合わせを行い、その約束に基づいて、決められたタイミング、決められた内容で、一般従業員がサポートを提供する。援助が必要なポイントを明確にし、約束に基づいて確実にサポートが提供されるので、人員配置、仕事の忙しさなどの変動要素にも影響を受けにくい。「いつ」「誰が」「どのような援助を」提供できるかについて、できるだけ具体的に取り決めをしておいた方が機能しやすい。
一言感想:「ナチュラルサポート」についてじっくり考えてみました。障害者雇用の現場によくあるのが「支援者任せの支援」です。これは障害のある方の働き方への影響も然り、支援者自身の働きがいややりがいの喪失やメンタル不調の原因にもつながりかねません。「面で育てる」という表現を用いる方もいらっしゃいますが、まさしく、職場で「自発的」「計画的」にサポートをする体制を整えることは、定着の観点でも、支援員のWE(ワーク・エンゲージメント)やいきいき職場づくりという観点でも必要かなと感じました。
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