毎週、学びになった書籍や論文を抜書きし、所感とともに紹介しています。先週から3回に分けて「障害者とディスアビリティ・マネジメント」を取り上げます。
『障害者雇用とディスアビリティ・マネジメント』(二神恭一ら)②
○しごと能力と特別支援教育
・インクルーシブ教育論の展開と「障害者権利条約」により、インクルーシブ教育への要請が一段と高まる。
・外国では「ただひとつの分離できない異質グループに向けての一般教育」(A.Hinz)という理解にたち、分離教育、隔離教育に対する批判が強い
・日本は特別支援教育の中にインクルーシブ教育の理念を取り込む。
・特別支援教育の中でのしごと能力の形成問題について考える。
○しごと能力とは
・一般的には、一般労働市場において雇われうるだけの社会経済的な交換関係に入りうるだけの能力、エンプロイアビリティのこと。
・福祉施設の「利用者」もしごと能力をもっている。
・しごとは、市場で報酬を得るジョブよりも広いコンセプト(国連『人間開発報告書』2015)
・しごとにはしごと能力、ジョブにはエンプロイアビリティが対応。
・しごと能力には
▷本人の努力を通じて形成される。一生のかなりの期間に渡っての営々たる努力(学習)である。
▷本人の人格、能力と不可分に結びつき、同時に社会的に客体化されている。
という2つの点が重要。
・就労にあたっては、職務分析により文書化された職務記述書、職務明細書があり、規定された仕事上の要件と、自分のしごと能力が合致するかどうかが極めて重要。
・しごと能力は、具体的には仕事の経験年数、学歴、年齢、資格によって示される。
・しごと能力に関していくつか貴重な留意点が指摘されており、特にHeckmanモデルが重要。
○Heckmanモデル
・3つの考え方が重要
1)しごと能力形成について二元モデルを提唱していること
2)時間的進化モデルを示したこと
3)恵まれない家庭の子どものしごと能力形成に当たって早期の支援を強調していること
1)二次元モデル
・人のIQ、認知力だけが人生の成功、時成功を決めるのではない
・認知力と非認知力という概念が登場
・非認知力とは、認知力(IQで測定される能力)以外の能力で、社会化の問題_「動機づけ、社会情緒規制、時間選好、他人との協力のための人的要素・能力」(Heckman,p10)
・障害者雇用の担当者の話でも、当人の障害グレードより協調性・持続性・生活習慣の方が作業遂行上、重要。
・核家族化、人間関係の希薄さなどで、非認知能力を育成する機会が少なくなっているか
・非認知能力の形成について、Heckmanは
Nt+1=FN,T(NtCtItCMNM)
と示す。
・Ntは年齢tでの非認知能力のストック、Ctは年齢tでの認知力ストック、Itは年齢tでの両親の投資、CMは母親の認知力、NMは同じく母親の非認知力を表す。
2)時間的進化モデル
・子どもの認知力と非認知力は、年齢とともに変化する。
・特徴として、自己生産性とダイナミックな相補性。
・自己生産性とは、ある時点で獲得された認知力や非認知力が後の時点で獲得される認知力やさまざまな非認知力を大きくするということ
・ダイナミックな相補性とは、ある時点で行われた親の子供に対する投資は、その後、親の投資が継続することによってより効果的になるということ
・「スキルはスキルを生み、能力は能力を育てる。あらゆるケーパビリティは以前の能力の基礎の上に形成される」
3)子どもの時が大切
・人の認知力、非認知力の形成やしごと能力の形成にとっても子どもの時が大切
○特別支援教育
・Heckmanモデルの進化の累積プロセスでは、特別支援教育のステージでの認知力と非認知力の容量が大きいほど、あとの展開は有利になる。
・早期の支援を協調
・林成之(2011)「子どもの才能は3歳、7歳、10歳で決まる」という主張もある。
※以下、特別支援学校での事例紹介。略。
○一言所感
「しごと能力」と特別支援教育について書かれた章でした。
しごと能力は「学び」と「客体化」の2つが重要と述べられている点に注目したいです。
そもそもこの章は、「早期教育」の重要性について述べられているのですが、我々大人も同様に、社会に出てから「学び続ける」という姿勢はしごと能力を高める上で必須です。
「いい学校を出た」ことが、仕事の成果創出においてあまり意味をなさないのは、過去に何を学んだかよりも、今学び続けているかの方がよっぽど大切だからだと思います。
本章では子どもの頃に焦点を当てていますが、勤労世代にも考えさせられる内容だなと感じました。
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