今週は「ダイバーシティマネジメントの実践」(東京都社会保険労務士会編)の第5章障害者の特にⅡ.事例紹介とⅢ.考察についてです。箇条書きでの要約と所感を述べます。
○事例1:障害者雇用率40%で生産性をあげているX社
・社員30名のうち、4割が知的障害者である物流業の会社。
・10年前から雇用。
・特別支援学校の教員から依頼を受けて障害者雇用を始める。
・当初は、正社員・パート社員の中に障害のある方が混ざって作業
・本人と周囲の生産性も落ちてしまう
・障害のある社員を周囲の作業環境に見合うように育てる考え方を改め、障害のある社員の作業能力に合わせた作業環境を作る視点に切り替える
▷出荷前の準備、出荷物の作り置きなど、出荷の補助的な部分業務を社内全体から切り出し
・社内業務の流れを見直して、障害のある社員にあった作業工程を一部分集中的につくることで、会社全体の生産性が高まる。
○事例2:企業内受さんで障害者の求人採用に成功しているY社
・廃棄物処理業のY社。
・障害者施設と業務委託契約をして、自社事業場の一部を受託業務の場所として障害者施設に開放。
・10-15名の障害者と施設職員がY社に通って、空き缶、ペットボトルの選別作業などを行う。
・作業能力を観察し、雇用につなげる。求人採用を効率的に行う仕組みをつくっている。
・以前、知的障害の方を採用した際は対応に戸惑った。企業がすることではない生活支援もしたが、雇用継続には求人と採用後の定着を円滑にできる仕組みが必要だった。
・NPO法人と業務委託契約の運びに。
・Y社での企業内授産で他の企業に就職するケースもある。
・企業内授産の方法d、障害者雇用の求人・採用・定着を円滑に行う仕組みを作った。
○事例3:精神障害者の労務管理体制を構築したZ社
・前職で統合失調症を発症した方が、自宅療養を経て入社した、社員18名の福祉サービス業Z社
・入社後に態度が変容し、会社も困惑
・対応として
▷働く時間の管理について・・・週15時間程度で状況を見ながら増やしていく
▷執務態度の指導について・・・障害の有無に関わらず、してはいけないことははっきりというべきだと確認。落ち着いて話すなどの言い方には配慮。
▷相談先の確保・・・変化に気づいた段階で主治医や支援者へ連絡を取れる体制。
○手帳のない障害者の就労事例
・障害者手帳のない障害者の就労は、会社の労務管理能力が試される。
・本人が障害を理解して、職場に必要な配慮を伝え、職場に働き方の多様性を受容できる風土があればうまくいく可能性は十分ある。
・ディスレクシア(読み書き障害)の方が、福祉事業所のケアスタッフとして働く事例。
・採用面接時より、自分の障害を公表して、できること、できないことを明確に事業所に伝えた上で採用された。
・不得意な読み書きについては、同僚の助けを借りながら、得意な創作活動で力を発揮。
▷読み書きが伴う労務管理関係の書類などは周囲の職員が手伝う
▷介護業務を一生懸命行い、創作活動の能力を活かして壁面装飾も積極的にこなす
Ⅲ.考察
・障害者雇用の成功企業は、障害のある社員が担当する仕事をうまく作っている。
・大事なのは、その仕事があることで、会社全体の生産性が高まる仕組み。
・障害者の方が仕事を覚えるのに3年を費やすなど、人を大事にしている。
・生産性を数値化しにくい業種の取り組みとしては、あいさつを徹底する、取り組み姿勢を徹底するなどの工夫で、社内に良い影響を与えるやり方をつくっている。
○労務管理
・採用にあたっては、会社は仕事をする上で必要と思うことは積極的に聞き、可能な配慮はする、できないことははっきりと伝える姿勢。
・生活面の支援は職場が関わることではないが、緊急連絡先、生活面の相談先は確保しておく。
・その他、希望勤務日数時、時間、かかりつけ医、受診頻度、不調時の状況や対処方法、服薬、主治医からのアドバイス、などを聞き取る。
○定期面談
・状況に変わりないか、半年に1回は確認したいところ
・定期面談の結果を職場環境の改善に繋げるための職場環境評価。
○受け入れの土台づくり
・障害者雇用に適した業務を切り出すことと、障害がある社員の担当者を決めること。
・担当者を決めておくと、日々の労務管理がしやすく、仕事中のイレギュラー対応もできている。障害者側も、相談できる上司・同僚が決まっていた方が安心感につながりやすい。
○一言所感
特徴的だったのは、安定的な就労には3年(中には10年)という記述。これは「長い」と思われるかもしれませんが、障害の有無に関係なく新人(中途採用も含む)が組織に馴染んだり、仕事ができるに成長したりするには時間がかかります。ですが障害者というだけで3年という期間が「能力が乏しい」といった偏見につながっているケースもあるでしょう。
成功事例に学ぶことは採用はあくまでスタートであり、定着や活躍に向けてはいろんなやり方はあれど、年単位で取り組む必要があるということ。そしてそれが「生産性向上」や「職場改善」につながるという効果も期待されることは改めて大切なメッセージだと感じました。
ありがとうございました。
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