「就労移行支援事業所における知的障害者及びASD者の 就労準備性についての変化 ―就労を見据えたキャリア教育の在り方の検討― 」小野里 美帆 岩崎 季路
ざっくりと要旨:特別支援学校を卒業し、就労移行支援事業所を利用した知的障害者の方々のスキルや能力の変化について分析したものです。
以下、ポイントを抜書きします。
・就労を通した社会参画は、成就感や達成感等の生きがい感を実感する上でも極めて重要(川上,2011)
・”自分でつくりだしていく””自分で獲得していく””自分で広げていく”ということが困難である知的障害者にとって、就労はこれらの意義や機会を得ることができる(手塚,1986)
・知的障害者が働くことを通して、社会的参加や経済的自立、自己決定、満足感などが向上する(今野・霜田,2006)
・知的障害者の就職後1年時点の定着率は68.0%(障害者職業総合センタ-,2017)
・知的障害者が離職した理由で最も多かったのは「就労意識の低下」(定岡,2017)
・知的障害者が就労を継続する成功要因の1つが「就労意欲の発達」(陳,2007)
・チェックリストを用いた調査(就労移行支援事業所を利用する8名)を、特別支援学校卒業直後の4月と、7ヶ月後の11月に実施。
・チェックリストは習慣領域7項目、人間関係形成能力領域8項目、自己モニタリング領域②項目、意思決定能力領域2項目、情報活用能力領域2項目、ワークスキル領域5項目の全6領域26項目で構成。
結果
・意思決定能力,情報活用能力,ワー クスキルは,比較的短期間の支援によって習得が可能であることが推察
・人間関係形成能力は,場面に応じて対応を変更することや他者の意図理解が必要とされるため,短期間での習得が困難であったと考えられる
・知的障害者の定着率は決して高くないが,職場に定着することができた知的障害者は、できなかった障害者と比較して、コミュニケーション支援の必要が低く、生活面においても自分の目標を自覚し、必要な努力をしていたという報告もある(鈴 木・八重田・菊池,2009)
・習慣や人間関係形成能力については,就労において重要なスキルであるにも関わらず,短期間における習得や変化は困難であることが示唆
・就労支援 全体にかかわる問題として、就労意欲及び、その前提となる「意欲」そのものを,学校教育期間から高めることが非常に重要であることが示唆
・知的障害者とASD者について,向上率の比較を行った結果、習慣や意思決定能力領域における 向上率は、ASD者の方が高かった
・要因としては、ルールやスキルをルーティン化して習得 することが得意であるASD者の特性を反映したものである(樋口・納富,2010)と解釈
・習慣や人間関係形成能力といった領域は、早期からの体系的かつ継続的な支援が必要である可能性
一言所感
1つの施設での短期間かつ少人数の事例ではあるものの、知的障害とASDの特性の違いが、就労後のスキルの習得の差異となっている可能性があることは、就労以前の教育はもちろんのこと、就労後の支援の重点化の視点においても示唆に富んでいます。
特にASD者の「意思決定能力」の習得率が顕著に高まっているのは興味深いです。
「意思決定能力」は「就労・作業意欲」や「善悪の判断」ですが、支援や関わりで高めていくことで、全体のスキルの底上げにもつながる可能性があり、支援の上でもとても大切だなと感じました。
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