名著「合理的配慮 対話を開く対話が拓く」(有斐閣,2016)から、整理したい箇所、気になった箇所などを抜書きし、所感を述べます。
合理的配慮の対象範囲
・差別解消法のもとでは「行政機関等」「事業主」であり、雇用促進法のもとでは「事業主」である。
・事業主は、主務大臣が作成する対応指針のもとで、合理的配慮を提供するよう自主的な取り組むを促される。
・事業主は合理的配慮を提供しなくても、直ちに罰則が課されることはない。
・合理的配慮を提供しないことが続き、自主的な改善を期待できないようであれば主務大臣がその事業者に報告を求めたり、行政指導をしたりする。
・事業者が虚偽の報告をしたり、報告を怠ったりした場合は、罰則を課されることにもなる。
rationalとreasonable
・「合理的」という言葉が、いささか誤解を与えやすい表現
・「合理的配慮」という日本語は、障害者権利条約の公定訳文で採用された”reasonable accommodation”の訳語。
・分析的な観点から、「合理的配慮」というかたまりの概念が、英米の哲学思想でいうところの”rational”ではなく”reasonable”のニュアンスを有している
・”rational”は「経済合理的」とか「目的合理的」
・”reasonable”は「「自己と目的を異にする他者から見ても『理に適った』とはいえる仕方で他社を尊重する態度に関わる意味」
・”reasonable”にはあえて「適理的」という訳語をあてる論者もいる(井上2006)
2つのタイプの差別と合理的配慮
・従来のタイプの差別を<等しいものを異なって扱う方の差別>と呼ぶ
・これに対して、合理的配慮の不提供という新しいタイプの差別は、異なる者を異なって扱わないときに生じる。この新しいタイプの差別を<異なる者を異なって扱わない型の差別>と呼ぶ
・新しいタイプの差別と、従来のタイプの差別には、原因と結果の関係が見られる。
合理的配慮の定義(権利条約の3つの要素)
・第一の要素は障害者の平等な人権行使を確保するための変更を意味する。
・ここでいう変更は「社会的障壁の除去」を意味するといってよい
・第二の要素は、個々の特定の場面における障害者個人のニーズに応じた者であることを意味する。
・第三の要素は、合理的配慮が「均衡を失した負担」と「過度の負担」を伴うものではないことを意味している。
合理的配慮をめぐるジレンマ
・本人が自己イメージをコントロールしたいと思っているにもかかわらず、提供者側の「合理性」を優先させて、障害が知られてしまったり注目を集めてしまったりするような配慮提供をするとしたら、それは社会的障壁の除去という要素に反する
・障害者のプライバシーを最大限に尊重しようとしてもなお解決されない問題。
▷第一に、感受されるスティグマが原因で障害の開示ができず、必要な合理的配慮を申し出られないとうこと。
▷第二に、配慮提供のされ方ではなく、配慮提供そのものが障害の顕在化やスポットライト化を不可避的に引き起こしてしまうこと
▷第三に、障害者本人が事業主以外に知られたくないとう場合、(略)障害特性への他の従業員の理解は進まず、結果的に障がい者を雇用することが困難になってしまう。
所感
対象範囲は定義については、非常にわかりやすく整理されていました。ありがたい。
「感受されるスティグマ」など、合理的配慮の提供におけるジレンマは、提供そのものの壁となりうるものであり、さまざまな経験や事例を通して「解決されない問題」という表現を少しでも解していくことができるのでは、と感じております。
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