ポジティブ&ネガティブフィードバックの効果/文献調べ
(本記事は24年12月9日に更新されました)
障害者雇用の現場でも「上司からのフィードバック」が障害者の帰属意識やモチベーションを高めることが明らかになっていますが、改めて「フィードバック」の質について、繁桝江里氏(2017)の研究をもとに、*ポジティブ(PF)およびネガティブ・フィードバック(NF) *の影響と、プロセスを考察します。
はじめに
上司のインフォーマルなフィードバックについて、日常的な頻度が部下に与える効果を検討したものです。
フィードバックの特性として最も基本的で重要なのが「評価がポジティブかネガティブか」(Ilgen,et al.,1979)ですが、PF(ポジティブなフィードバック)およびNF(ネガティブなフィードバック)が部下に与える影響の違いを解明するため、その効果が生じるプロセスの媒介要因として「上司に対する信頼」に着目した研究になります。
上司がフィードバックを行うことによって、上司に対する部下の信頼が高まり、その信頼が部下に効果をもたらすというプロセスをモデル化し、PFとNFは信頼との関連の仕方が異なることにより、部下に与える効果が異なるという仮説を検討していきます。
1. ポジティブおよびネガティブ・フィードバックの効果
・Podsakoff, Bommer, Podsakoff, & MacKenzie (2006)のレビュー論文においては
報酬行動について
・上司が、部下のパフォーマンスに応じて即応的に報酬行動をを取ると、プラスの効果が。パフォーマンスに関わらない報酬行動はマイナスの効果があるようです。
つまりは、部下の「上司はよく見てくれている」という感覚が大切なのだと思います。
懲罰行動について
上司の状況に応じた懲罰は、「役割の明確化」「上司に対する信頼」などを高めるようですが、「即応的な報酬行動」と比べると弱いようです。
一方で、非即応的な懲罰(パフォーマンスの如何に関わらない懲罰)は、上司への信頼や役割などのすべての指標を弱めていました。
ゲーテの「人間の最大の罪は、不機嫌である」を想起したのは私だけでしょうか。
「報酬」「懲罰」を「ポジティブフィードバック」「ネガティブフィードバック」に置き換えて考えてみます。
2. ポジティブフィードバック効果について
部下へのフィードバックは「上司に対する信頼」に対してどう影響しているのでしょうか。
そもそも、信頼という概念は、
- 信頼しやすいという「特性」
- 特定の相互作用によって構築されたり崩壊したりする創発的な「状態」
- 行動や態度または関係性を強化したり弱化したりする「プロセス」
の3つの捉え方(Burke, Sims, Lazzara, & Salas, 2007) があります。
ここでは、信頼について「相手への信頼」「脆弱性の受容」を含む心理状態と定義します。
3. 「上司の信頼性」に対するフィードバックの効果
Mayer, Davis, & Schoorman(1995) は信頼の先行条件として「信頼性」を定義しています。「信頼性」とは
- 能力の信頼性_上司の職務遂行における能力や専門性
- 誠実性の信頼性_上司が、部下が受容できるような倫理的原則に沿って、一貫性ある行動をする
- 慈善性の信頼性_上司が部下の幸福のために行動
の3つの側面があります。
本研究の仮設として「PFは信頼性の3つの側面を全て高める」「NFは能力への信頼性のみを高める」としていますが、結果はどうだったのでしょうか。
結果
結果として、
上司のPF頻度が高い
- 能力、誠実性、慈善性の3つの側面の評価が高まる
- それにより、上司に対する信頼が構築され、部下のコミットメントと成長満足感が高まる
上司のNF頻度が高い
- 能力の信頼性が高まる
- それにより、上司に対する信頼が構築され、成長満足感が高まる
ということが明らかになり、仮説が実証されました。
考察と今後の課題
本研究の考察としては
- より多くPFするというコミュニケーション頻度の高さもポジティブな効果をもたらす
- 自分への肯定的な評価は、上司への信頼構築以外のプロセスによっても、職場での適応感や職務への満足感を高める
- NFの頻度は上司の能力の信頼性を高めるのみ
- NFの悪影響に配慮する必要性はあるものの、過度に懸念し回避するのではなく、NFがポジティブな効果をもたらす条件について積極的に検討していくことの意義も主張できる
- 悪いところを指摘されるのは自己イメージへの脅威(Ashford & Tsui, 1991) を考えると、NFのを頻繁に行う上司から慈善性を読み取るのは難しくなる
- 「コミュニケーションが信頼を高め、信頼がコミットメントを高める」Zeffane, Tipu, & Ryan(2011) という因果の方向がその逆よりも妥当
まとめ
障害者雇用の現場においては、終礼でその日の業務を指導員と振り返るケースもあると思います。
指導的な指摘(例えば、「あの場面はこうしないとダメでしょ」)がNFだとすると、指導員への「能力」への信頼性は高まるということでしょう。
一方で、賞賛的な指摘(例えば、「あの場面でのあの行動は、素晴らしかった」)をPFだとすると、指導員への「能力」「誠実性」「慈善性」が高まります。
指導員への信頼は、「もっと頑張ろう」という気持ちも高めるはずですし、職場のコミットメント(定着支援)にもなると考えます。
参考:「ポジティブおよびネガティブ・フィードバックが部下のコミットメントおよび成長満足感に与える影響:上司に対する信頼による媒介効果の検討」繁桝江里(2017)
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