障害者雇用とワーク・エンゲージメント
障害者雇用は「量」から「質」に移行していると言われています。今回はそんなお話。
法定雇用率が右肩上がりで上昇し、民間企業では2026年7月より2.7%となることが決定しています。
各企業は3年後の雇用率達成に計画的に取り組んでいく必要があるのですが、一方で「障害者活躍推進計画」では、(まずは国と地方公共団体の機関において)今後「定着率」にも着目した取り組みが求められています。(参考:https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/001049742.pdf)
世界各国の障害者を対象とした政策を概観しても「福祉」の観点から、より人間らしく生きていくための「機会均等」や「人権保障」などの視点に立った内容へと転換が図られていて、その1つに「障害者の雇用機会の確保・拡大」が挙げられます(工藤,2008)。
「機会の創出・拡大」の観点は、採用して数を増やすという以前の障害者雇用の重点課題が、採用した後どうするかという課題に移行したこと、つまり先述した「質」に課題が移行してきたと言うことです。
実際、障害者も重要な人財として捉えて働きやすい職場づくりに取り組んだり、「障害者」という呼び方を用いず独自の前向きな呼称を設けて接したりと、働きやすさを考慮し、良い意味で「特別な存在」とみなさずインクルードしていこうとする事例もあります。
そこで今回は、「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態」を示すワーク・エンゲージメント(Schaufeli.et al,2002)について考えることにしましょう。
ワーク・エンゲージメントとは
過去の記事でも何度か触れているので、ここでは簡単にご説明します。
前述の通り、仕事に対するポジティブな心理です。
似た言葉に「職務満足」というものがあります。
私の理解の範囲ではありますが、一言でまとめると
職務満足=仕事(場)が好きか
ワーク・エンゲージメント=働くことが好きか
ということだと思います。
職務満足は、仕事に対しては肯定的な認知でしょうが、「生き生き働いているか」という視点は見ていません。つまり、「仕事(場)は好き、働くのは好きじゃない」という場合であっても、職務満足度は高くなります。
ワーク・エンゲージメントは「働くこと」により重点を置いています。それも、ガリガリとワーカホリックてきな働き方ではなく「生き生きと」がポイントです。
ワーク・エンゲージメントが高いと、”仕事に誇りややりがいを感じ、仕事に没頭し、熱心に取り組み、仕事から活力を得ていきいきしている状態”を示しています。(小田切ら,2020)
働きがいを高めるには
一般的にワーク・エンゲージメントを高めるには下記のようなアプローチがあります
組織からのアプローチ(資源を増やす)と、個人からのアプローチがあります。
個人の資源には「自己効力感」「レジリエンス」などが関与しますが、今回は組織の資源について考えています。
今後、障害のある社員が働き続けたいと感じられるには組織の働きかけ(≒環境整備)が必要になります。
小田切ら(2020)は、ハード面、ソフト面に分けて下記のような配慮が想定しています。
ハード面は目に見えやすいものであり、支援の程度が把握しやすいです。
一方で、ソフト面は周囲の人たちの理解が重要になります。「ソーシャルサポート」という表現も出ていますが、弱い繋がりでもいいのでたくさんの人の理解の中で働くことが求められていると感じます。
まとめ
これからの障害者雇用は「定着率」「ワーク・エンゲージメント」といった、雇用された後の働き方がより重要になってきます。
また、この視点は「誰もが働きやすい職場」に広がっていくものであり、障害者雇用が障害者のためにあるだけではないということも理解する必要があります。
参考:障害のある労働者の心理的健康度向上に向けた配慮の在り方ーワーク・エンゲージメントに注目してー 小田切ら(2020)
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