ADHD者との職場での関わりのヒント〜教育現場からの示唆〜/文献調べ25-06

前回に続き、角南なおみ先生の著書「発達障害における教師の専門性」(学文社,2022)から、企業の障害者雇用現場において、上司・先輩・同僚の人たちが発達障害のある社員とどう関わるかのヒントを探ります。

今回は、「ADHD児に対する困難感プロセスの特徴」の章を抜書きし、所感を述べさせてもらいます。

目次

教師の関わりの特徴

ASD児同様に、教師がADHD児への個別対応が上手くいかない場合に指導の「困難感」が表出していました。

「困難感」に直面した際、教師は「特性理解」「子ども(本人)の理解」という多面的な理解を図ろうとするようです。

特性理解

「特性理解」は「認知特性」と「行動特性」に分けられます。

認知特性

  • 不注意・・・すぐに注意が逸れてしまう
  • 多動性・・・身体が意識しないうちに動いてしまう
  • 衝動性・・・思考がすぎに言葉や行動に現れてしまう

行動特性

  • 諦め・・・失敗状況に対する自己統制(Milich,1994)。注意と忍耐を要する努力が難しい上、失敗体験も重なり、自信や関心のない活動に対し諦め、最初から課題に取り組まない。失敗しないようにする。
  • 認知の偏り・・・「肯定的錯覚バイアス(Positive Illusory Bias)」(Owens et al., 2007)
  • 状況把握の難しさ・・・自己に関する「現実と異なる省察」(Hoza et al., 2004)

子ども理解

発達特性を除いた領域の本人の理解として「承認」「内面理解」があります。

承認

  • 行動承認・・・良い行動を評価
  • 能力承認・・・能力部分に対する承認
  • 努力承認・・・特性のため結果が出にくいことも多いが取り組みの過程を認める
  • 資質承認・・・生来的な良い性質に対する承認

内面理解

心情理解・・・行動の背景にある子どもの心情について
思考理解・・・不適切行動をしてしまう子どもの思考について
背景理解・・・子供を全体として理解するための家庭状況を含む背景について

困難さによる「教師の悩み」のが生じた際、多面的理解から「対応の再検討」がなされ、「個別対応」「学級での関与」を経て、「振り返り」が行われていました。

省察的実践家としての教師の専門性

「振り返り」を通して、今後の関わりの方向性を判断しているところから「省察的実践家」という言葉が出てきています。その点を踏まえて、教師の専門性を整理すると以下が示唆されています。

  • 特性理解を「認知特性」として諦め・認知の偏り・状況把握の難しさを含めて理解していること
  • 自己肯定感の低さを考慮した個別、集団対応
  • 子どもの分析の自己省察とを往還した理解と対応。

これら省察過程は、教師の「省察的実践家」(Schon,1983/2001)としての専門性を示しているようです。

所感

「省察的実践」という言葉は、医療や教育の現場で用いられますが、改めて、いい言葉だなと思います。

実践だけでは知見が蓄積されませんし、思考だけでも実践知は得られません。

やってみて、ふりかえって、よりよい方向性を見出すという、「省察」という行為を用いた実践は、プロの支援者として重要なあり方だなと感じました。





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