障がい者雇用現場での「有用」な「障害とは何か」という問いを考える/文献調べ25-01
「障害とは何か」
この問いは、弊社の研修の冒頭で、アイスブレイク的に問うているものでもあります。
参加者間での答えがバラバラであることをまず理解し、『この研修の中での障害定義』をすることが目的です。
一方で、「障害とは何か」という問いへの答えは一般化されているのでしょうか。
「障害」や「障がい者」は一般的にどう捉えられているのか、牧田俊樹先生の書籍や論文から理解を深めようと思いました。
今回、牧田先生の書籍や論文をを抜書きしつつ、ポイントをおさえていきます。
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「障害とは何か」という問いの対立
障害とはなにかという問いをめぐって、ポスト構造主義者と相互作用論者の対立があります。
牧田先生の論文では、(障害学における)「ポスト構造主義」とは、グッドレイの
「真なる概念に見切りをつけ(give up to)、それを言説という概念位置き換える」立場(Goodley,2017)
という定義を用いています。ちなみに「言説」も多義的に用いられますが、これもグッドレイの
「言説とは言明・概念・実践の規制されたシステム」(Goodley,2017)
という定義を用いております。
この上で、ポスト構造主義者は、障害とは何かという問いに、「障害とは、歴史的・社会的・文化的文脈によって左右されるので、一義的に答えを出すことはできないものである」と答えるのではないだろうか、と述べられています。
「障害」という言葉が用いられる状況は、用いられる場の背景、状況、そこにいる人と人との関係性によっていくつもの異なるパターンがあるので、1つにはまとめられない!ということでしょうか。
一方、相互作用論とは、障害を「実在」と構築の相互作用であると考える理論であり、「障害とは、実在と構築の相互作用である」と答えるのではないだろうか、と述べられています。
相互作用論では、機能の障害と、そこにあるバリアとの相互作用が「障害」になると考えるので、これもまた、環境的な要素が絡んでくるため、ポスト構造主義と同じように「1つにまとめられない!」ということになりそうです。
つまり、対立する必要がないように思うのですが、論文では対立の背景についても触れています。
対立の背景
「障害とは何か」をめぐる対立が生じる要因の1つは「真理」への固執、その背景にある己の信念体系・理論体系の「正しさ」に対する固執であると考えられている上で、対立を「無意味」であると述べています。
そして、多様な障害定義を目的に合わせて選択することは可能としています。
例えば、
急性疼痛は、「実在論」をベースとする医療的ケアが必要であり、障害を「実在」と定義する方が折り合いがよく、
慢性疼痛は、その意味を再構築し直すことで、解消される可能性のあるものなので(熊谷,2013)、「障害とは社会的に構築されたものである」という定義が「有用」です。
また、知的障害の「わからなさ」に焦点を当て、「知的障害とは、身体と世界の不調和」と定義をすることで知的障害者の痛みを捕捉します。
まとめと所感
「障害とは何か」を「有用性」から定義するものであり、「障害者雇用の現場」という環境においてより戦略的で実践的な定義を用いることを「可」とする考え方というのは、我々のような支援的な立場からしてもとても「有用」と考えます。
参考文献:
書籍:「「障害とは何か」という問いを問い直す 「事実」から「有用性」に基づいた障害定義の戦略的・実践的使用へ」(牧田俊樹,生活書院, 2024)」
論文:「クワインの「全体論」とローティの「真理」に関する考察から導き出される「障害」の多様性 ―「事実」をもとにした障害定義から「障害定義の戦略的・実践的使用」へ―」(牧田,2022)
論文:「障害とは何か」という問いを問うー障がい者にとっての「有用性」に基づく障害定義の戦略的・実践的使用は可能かー」(牧田,2022)
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