障害の社会モデルの理論と実践(石尾,2008)/文献調べ 24-43

要旨
障害の社会モデル理論は、障害を社会的な問題として捉える考え方を基盤に、実践レベルでの応用が模索されています。本記事では、社会モデルの基本概念とその歴史、批判と応答、さらに日本の障害学の視点を「障害の社会モデルの理論と実践」(石尾,2008)を参考にさせて頂きながら、紹介します。


目次

障害の社会モデルとは?

「障害の社会モデル」とは、障害を個人の属性ではなく、社会的障壁として捉える理論です。

これに対し、従来型の障害観ともいえる「個人モデル」は、障害の原因を「インペアメント」(心身の機能障害)と捉え、障害の負担が個人に押し付けける傾向がありました。

一方で、「社会モデル」は、障害の原因を「ディスアビリティ」(社会が生み出す不利益や制約)と捉えます。
社会モデルでは、障害に伴う責任や役割を社会が負うものであるとひ、個人ではなく社会の変革を重視します。ただし、「社会モデル」の理論のわかりやすさゆえに、要素が簡略化されている点も指摘されています。


歴史的背景

障害学の研究は1970年代からイギリスやアメリカで発展しました。イギリス障害学の創始者であるマイケル・オリバーの最大の成果が「障害の社会モデル」と言われています。

1975年には、UPIAS(隔離に反対する身体障害者連盟)が以下のように定義しました:

  • インペアメント:身体や器官の機能的な欠損や障害。
  • ディスアビリティ:インペアメントを持つ人々が、社会構造により不利益や活動の制約を受ける状況。

この定義は、障害を個人の問題から社会の問題として位置づけるきっかけとなりました。


イギリス社会モデルへの批判と応答

社会モデルには、「身体の経験を軽視している」という批判があります(Morris, 1991)。これに対し、オリバーは、「障害問題を個別的・個人的問題と捉えることは危険である」と応答しました。


日本における障害学の視点

日本では、星加良司先生(2007)が、「ディスアビリティはそれとして発生ないし、創出されているのであって、インペアメントはあくまでも後続のカテゴリーだから、ディスアビリティをインペアメントとの関連で同定することには無理がある」とし、インペアメントをディスアビリティの存在から遡及的に措定されるものだと分析しました。

また星加先生(よく存じ上げる先生なので、敬称をつけさせて頂きました)は、ディスアビリティを
「不利益が特有な形式で個人に集中的に経験される現象である」と再定義しました。

星加先生の主張としては、インペアメントはディスアビリティの存在によって現れてくるという見方です。


個人モデルと社会モデルの統合の課題

一方で、教育や臨床現場では、「個人モデル」に近い概念で、個の伸長やリハビリを行います。これはインペアメントの克服や改善という見方もできますが、両者の統合はどう考えるのでしょうか。

杉野(2005)はリハビリを「できないことをできるようにするプロセス」として説明し、これは社会モデル的視点とは対立する側面を持つと指摘しました。

教育においても「できないことをできるようにする」ことが目標とされており、社会モデルの理念との調和が求められています。


まとめ

障害の社会モデルは、障害を社会的な問題として再定義し、障害者の生活をより良いものにするための重要な理論です。ただし、実践レベルでの統合や現場での適用には課題が残されています。これからの研究と実践が、個人モデルと社会モデルを融合させた新たな障害支援の在り方を模索していくでしょう。

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