「企業経営に与える障害者雇用の効果等に関する研究」/ 文献調べ24−24
2010年の障害者職業総合センター(NIVR)の研究報告から、気になった部分を抜書きしながら考察してみます。
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障害者雇用が企業経営に与える経済的影響 〜文献サーベイ
経済的影響に関して、以下の文献のサーベイを行っている。
・青山英男,1997
・茅原聖治,1996
・J.Graffam et als,2002
・効果にはプラスとマイナスの両面がある。
・概ね、その結果は金銭的にはマイナスとなるが、企業イメージや従業員のモラール向上等の非金銭的なプラスの効果。
青山論文
・健常者だけを雇用する企業に比べ、障害者雇用企業には以下のような特別費用が生じる
昭和50年代前半
①生産量や品質を維持するために追加的な生産要員と、従業員増加に伴う間接要員
②物理的環境の整備や設備。機械の改良に伴う費用など。
③訓練・教育の費用と期間。
昭和50年代後半
①生産設備の量的増加、高度化による償却費の増大。
②設備投資費用など。
③訓練、技術指導、作業指導、および管理。
茅原論文
・費用―便益分析の理論的枠組みを用いて、プラスとマイナスの効果を考察
・便益には非金銭的利益(人間的利益)も加算しなければならないと指摘
①社会的信用の確保
社会的信用を得られ、信用が売上増などの金銭的利益につながる
②企業経営者の精神的安定
社会的信用低下に対する不安からの解放
③社員の将来の対する不安の解消
将来我が身になにがあっても手厚い保障が受けられるだろうと、
④社員の労働意欲の向上
自社に対する誇りや愛社精神が高まり、社員のモラールが向上する利益
マイナスの効果として
・物理的な設備の整備
・仕事の選別
・OJT
・不確実な勤続形態
・低い生産性
・転勤、配置転換が困難
障害者雇用のための配慮とその影響
・障害者雇用の企業においては、各種配慮が障害のある従業員に対する生産性や満足度によい影響があることを認めている。
・実際に配慮を実施している企業の方が良い影響があると考えている。
・「従業員の理解促進」を行っているところでは、障害のない従業員にとっても満足度に良い影響
・「作業内容、方法の改善」について配慮している企業は、配慮を実施していく中で職務の創出に係るノウハウを積み重ねていると考えられ、このことが生産性や満足度に効果を及ぼしていると推察される。
企業全体に与える社会的及び波及的効果
・「物理的な環境改善」「機器の改良や導入」を実施している企業は実施していない企業との間で、顕著な違いとして「株主や投資家からの評判が良くなる」「取引先からの評判が良くなる」「企業として同業他社をリードすることになる」といった点。
・「作業内容、方法の改善」及び「OJT」の実施により「従業員のモラール(士気)が向上する」「従業員全体の自社に対する帰属意識や信頼感が高まる」「職場のコミュニケーションが活性化する」など、作業場面を通じて関わりが生じ、社員と企業との関係や社員同士の関係、従業員の仕事に対する姿勢や職場全体の雰囲気など、社会全体への波及効果を感じている企業が多い。
所感
14年前の研究ですが、効果のポイントとしては大きな変化がない様に思います。従業員50名未満の企業では、人事管理の向上による組織の安定化(金,2016)が示されていますが、「コミュニケーションの活性化」や「従業員のモラール向上」も金の報告でも同様に挙げられています。
再任用、再雇用など、60歳で仕事から離れるといった従来の働き方から大きく転換してきている昨今においては、障害者雇用による柔軟な環境整備などは「年をとってもこの会社なら働けそう」という安心感や愛社精神につながるのかもしれません。一方で、マイナスの効果も指摘されています。大きくは、金銭的な負担と人的な負担の2つです。ただ、これらを踏まえた上でも配慮を実行することで、プラスの効果が芽生えているとも言えます。
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