障害者雇用担当者間のつながりがもたらす「支援の有効性」を考える/文献調べ24-44
障害者雇用を実施している各企業には、障害者雇用担当者が専任・兼任含めていらっしゃると思います。
法定雇用率が高まりをみせていますが、全従業員の約3%弱の雇用に対して、潤沢に担当者を配置して推進している企業は少ないはずです。大規模企業でも「障害者雇用担当は1人」というところも多くあります。
担当者が、社会的責任の大きい自社の「障害者雇用」を進めるのは、業務的にも精神的にも負担が大きいでしょう。よく聞く声として「孤軍奮闘」というキーワードがあり、日頃のご苦労が滲み出ているなと感じます。
今回は「担当者の孤軍奮闘をどう克服するか」について、「担当者間の繋がり創出の有効性」と言う視点で考えます。
障害者雇用の状況
現在の障害者雇用の状況として、厚生労働省「第1回今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会 説明資料」の中にある「障害者の雇用の状況(企業規模別)」をみてみましょう。
未達成企業、ゼロ企業ともに、企業規模が小さくなるほど、割合が高くなるのが分かります。
「社内での受け入れ体制が整っていない」「切り出す業務がわからない」といった雇用への課題が大きいと推察されます。ちなみに同資料には各種助成金についても紹介されており、「経済的負担への懸念」を抱えている企業さんには参考になります。
規模の小さい企業ほど障害者雇用に対する社内体制整備(雇い入れるまでのハードル)の困難さが窺えますが、300人以上の規模から大多数が1人以上の障害者を雇用しており、500人以上の大企業となるとほぼ100%が雇用を実現しています。担当者レベルの課題は小規模のものとは毛色が違ってきます。例えば
- 障害者の採用数/障害種別を拡大したい
- マネジメント層の障害理解を促す研修をしたい
- 受け入れ部門を拡大したい/組織風土を改革したい
- 障害者雇用チーム、DE&I推進チームの知見を深めたい
- 誰もが能力を発揮できる職場を目指したい
- 現場での関わり方や仕事の教え方を学びたい
などがあり、採用から定着、職場の理解、他職種・機関連携など、課題の深さも広さも多岐に渡ります。
こういった課題を抱えた担当者同士が「横のつながり」によって、「課題の共有」「各社の工夫からの学び」を創出することは、全社的な障害者雇用推進にもつながるポイントだと考えます。
そしてその「横のつながり」とは、普段あまり関わらない人の方が解決の糸口になるかもしれません。
弱いつながりの強さ
「人的資本の論理 ―人間行動の経済学的アプローチ-(小野浩,2024)」を参考に人と人とのつながりの強さと弱さについて考えてみましょう。
これにより「誰とつながって課題解決をするのが有効なのか」が見えてきます。
強い絆と弱い絆
同著で紹介されている、グラノベッター理論を紹介します。
グラノベッターは「強い絆と弱い絆_strong ties and weak ties」(Granovetter,1973)」について以下のように述べています。
強い絆
・個人間の親密な関係。家族や親友。
・情報の正確性、信頼、感情のサポート
弱い絆
・友達の友達、知り合いの知り合い。二次的なつながり。
・ジョブマッチングには弱い絆がとても重要
・普段付き合いがない人たち。
・異質なネットワークにアクセス。
・異なる情報を入手することにより、新しい機会が生まれる可能性が高い。
さらにそれらがもたらすネットワークについても言及しています
強い絆で結ばれたネットワーク
・家族や会員制組織など、閉じた組織
・信頼が厚く、互いに口にしなくても意思疎通ができるくらい密な関係
・内と外の区別がはっきりしており、知識の情報のフローが限定的
・社会学のホモフィリー(homophily_社会ネットワークや人間関係において、類似性に基づいて繋がりが形成される現象や傾向)になる傾向が強い
・異質性を嫌う。
・いつも同じメンバーと付き合い、新しい人と交流をしなくなるため、強い絆のネットワークは閉鎖的になりがち(西村ほか 2022)
・ネットワークに流れる情報も同質で限定的になる
弱い絆で結ばれたネットワーク
・オープンなネットワーク
・強い絆で結ばれたメンバーもいれば、弱い絆で結ばれたメンバーもいる
・1つのネットワークを異なるネットワークに結びつける役を果たすブローカー、(もしくはハブ)がいる(Burt,2005)
・ブローカー役になるメンバーこそ、弱い絆の強みをもった人
・ブローカーは異質のネットワークにアクセスすることで、新たな情報と機会を獲得することができる
・ホモフィリーとは逆に、異質性を取り入れる点で優れている
・人材の流動性、多様性が高くなる
強い絆によるネットワークは、メンバーの同質性も高いため、交わされる情報も同質のものが多くなりますし、メンバーの新規参入も限られるため、閉鎖的になります。
そして一番問題だなと思うのは「異質性を嫌う」ということです。
障害者雇用を含めたDE&I推進に話を転じます。
これらの推進活動は「異質さを取り入れる活動」ともいえると思います。強い絆のネットワークがそれを拒む可能性があるのは、想像に難くないです。
そして、障害者雇用担当者がよく「社内で相談相手がいない」というのは、課題の現状打破につながる新しい視点を得づらいからかもしれません。「誰に相談してもだめ」といった学習性無力感に近い話をされる方もいて、事態は深刻です。
一方で、弱い絆によるネットワークは、新しい情報のアクセスが可能になります。「そんな考え方があるのか」「そのやり方は、自社でも使えそうだ」といった気づきにもつながりやすいのです。
つまり、自部門や自社内以外の人たちとつながることが、担当者の課題解決のポイントとなりそうです。
事例:関連各社の担当者勉強会を実施したA社
弊社が研修でご支援させてもらったA社さんの事例です。
A社の人事担当者さんは、関連会社を含めた「担当者の悩み共有の場を作りたい」とお考えだったようで、お問合せをくださいました。
グループ内の関連会社とはいえ、お互い名前と顔を知るくらいの関係性なので、深い対話をしたことはないようです。
そこで、対面研修にて障害者雇用の現状や基礎知識のインプットを図ったのち、「担当者の苦労と工夫」と言う視点で、ワークをふんだんに設けました。
担当者の気づきとしては
- 自分と同じような悩みを抱えている人が多くいて、少し気持ちが楽になった
- 各社さん、同様の課題を抱えているようで、自分の力量不足だけが問題ではないと気づき、安心した
- ○○社の担当者の話が刺さった
- みなさんの工夫点は、明日からでも使えそうなTipsだった
- 新たな「支援の形」が検討できてよかった
などがありました。
担当する業務は同じでありつつ、所属組織の状態・文化は異なる人たちなので、多様な意見が生み出されたのだと思います。
規模の小さい企業であれば、他社の担当者のつながりが大事になります。各種協議会や研究会への参加を検討したいところです。
まとめ
障害者雇用担当者の課題解決に向けて、「弱い絆のネットワーク」の視点で考えてみました。
担当者さんの悩みは、身近で伺う機会が多いため、その大変さはとてもよく分かります。
また、社内での担当する人が少ないが故に「後継者を誰にするか」という問題を抱えてもいます。
弱い絆のネットワークは、社内での協力者を増やしていくきっかけにもなると思います。
担当者間での勉強会をしてみたいとお考えであれば、一度お問合せくださると幸いです。
コメント