障害者雇用における「違い」を考える/文献調べ25-03

「ダイバーシティ」とは何か。「違い」とは何か。

障害者雇用推進において、「ダイバーシティ」や「多様性」の指し示す内容を整理することは、取り組みの方向性を修正したり、「違い」をより有効に活用したりできるはずです。

今回は、早稲田大学教授の谷口真美先生の「違いは何か?-組織における多様性の構成概念- 分離(距離)、種類、格差-」(谷口,2023)」を抜書きしつつ、「ダイバーシティ」の捉え方について整理します。

ダイバーシティとは(論文からの抜書き)

・(本稿の題材である)Harrison and Klein(2007)が明らかにしようとする「多様性」とは,「集団における多様性」
・ダイバーシティの伝統的な定義は,「ジェンダー,人種・民族,年齢における違い」(米国雇用機会均等法委員会)
・ダイバーシティという言葉の包括的な定義は「ワークユニットの相互依存関係にあるメンバー間の,個人の属性の分布」(Jackson, Joshi and Erhardt2003)。
・ダイバーシティが成果にプラスかマイナスなのかを論じても,何をもって多様だとし(測定対象),どのように客観的に測定するか(概念の操作的定義あるいは構成概念妥当性),さらには目指す姿が何なのか(最適値=ゴール)によって捉え方が違っている。
この違いをHarrison and Klein(2007)は,「分離(距離) (Separation)」 「種類(Variety)」 「格差(Disparity)」の3つの観点で説明

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3つの観点

格差(Disparity)

組織や社会に存在する不平等に着目。多様性の問題を、パワーや影響力のあるポジションに社会的マイノリティが少ないこと、富の分配の格差があることと捉える。女性活躍推進法が求める男女間格差の是正も、まさにこの観点。

分離(距離)(Separation)

職場や集団内の価値観、信念、態度のへだたり・分極化に注目。個々の価値観の違いが、仕事の進め方、仕事へのやる気などの違いに表れ、職場が分断し、業務が滞ることがある。重要なチームプロセスや結果についての意識の差、会議の時間帯や時間外労働についての信念の違い、帰属意識や結束についての意識の差などの観点。

種類(Variety)

知識、スキル、能力が分散していることに着目。集団内の多様性が多面的な検討を可能にし、創造的問題解決につながるという仮説はこの捉え方に基づいている。

「分離(距離)」「種類」「格差」の「意味」「最も多様な状態」「予想される結果」「基盤となる理論」をまとめたのが下表

・「分離(距離)」「最も多様性が高い状態」では,結束が弱まりタスク成果が減退し,二極化(最も低いメンバーと最も高いメンバーに分離)する。「予想される結果」は,コンフリクトの発生,信頼の低下,タスク成果の減退
・「種類」の「最も多様性が高い状態」では,革新性や創造性,決定の質,タスク・コンフリクト,集団としてのフレキシビリティが高まる
・「格差」の「最も多様性が高い状態」では,少数者(あるいは 1人)が,ほとんどの分配を得て,その他が得る分配が最も少なくなる。その結果,メンバーのインプットが少なくなり,内部の競争が増加するだけでなく離脱者も増えてくる

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障害者雇用への示唆(汐中の考え)

障害者雇用においていくつか示唆的な内容があります。

1つは、「分離(距離)」への対応です。特に、障がいのある人とない人の「分離」ではなく、障がいのある人への支援に対する、周囲の人々(支援的立場の人たち)の価値観や信念の「分離」への対応です。

障がいのある人に対する「支援」が、その人の意図や考えを無視するものであってはならないのですが、実際の支援場面では、支援者が優位の支援になってしまうことがあります。

「支援」とは、被支援者の主体性があり、意図のある行動に対して、支援者が手を差し伸べるものです。

「支援」のあり方を支援者側が共通認識としてもっていなければ、支援者間の「分離」になりうるなと感じました。対応としては、会社としての障害者雇用のポリシーの掲示、支援者間でのコミュニケーション、支援についての学びが必要と考えます。

2つ目は「種類」の活用です。特に、障害者固有の経験や知識について知ることは、事業レベルでは新事業の創出、職場レベルでは従業員間のコミュニケーション機会(対話)の活性化などが期待されます。それぞれの「違い」を認識するための研修など整備する必要があると考えます。

3つ目は、「格差」の是正です。障害者差別解消法によって、「格差」が生じないような法整備はされていますが、障がいのある方の主観においても「格差」を感じさせない職場の環境整備、各種制度の整備などが必要です。

今回は、谷口先生の論文から「ダイバーシティ」のほんの一端を考えました。引き続き学びを深めていきたいと思います。

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