障害者の経営学/文献調べ24−25

「障害者の経営学 ー雇用から起業へー」(寺島、2021)の中から、興味深い箇所を抜書きさせて頂き、所感を記します。

目次

障害者が働く意義

・1人の健常者、1人の障害者と一つの会社から考える

株式会社オウケイウェイヴの創業者、兼元謙任氏

「人がなぜ生きているかというと、自分が行きたいからだ。仕事も同じだと思う。どうしてみんな仕事をするのか。それは仕事をしたいからじゃないだろうか。」

株式会社オリィの元従業員、番田雄太氏(共同創業者吉藤オリィ氏の話から)

「『障害者年金と、自分で稼ぐ事は全然違う』と、番田はまず母親にたくさん服を買ってあげて、私には高級な魚料理屋を予約しご馳走してくれた」
「番田のすごいところは、人生を決して諦めなかった事だ。彼の言葉で言うなら”生かされる人生”を良しとせず、とにかく自分の意思で”生きよう”とした。人から与えられた安全、安心の人生を良しとせず、生まれてきたからにはこの世のすべてにチャレンジし、楽しむのが当たり前だと言わんばかりに」
(番田氏が口に筆を咥えて書いた書道作品から)
「心がじゆうならどこへでもいき何でもできる」

日本理化学工業株式会社

(ホームページより。元会長大山氏と導師の言葉から。)「導師は『人に愛されること、人にほめられること、人の役にたつこと、人から必要とされること、の四つです。働くことによって愛以外の三つの幸せは得られるのです』と。その愛も一生懸命働くことによって得られるものだと思う。」

障害者の労働生産性

・日本には1割弱の障害者がいるわけで、障害者雇用をしつつ、儲ける起業体質にすることは、どのように可能なのか
・労働生産性の工場には、(中略)モチベーションを高めることも関係している。
・QWL(quality of working life)の新しい形態として、ディーセイント・ワークという言葉が登場し、その意味は、働きがいのある人間らしい仕事である。
・(ILOより)「ディーセントワークとは、権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事を意味します。それはまた、全ての人が収入を得るのに十分な仕事があること」まさに障害者が求める概念であると考えられる。
・モチベーション以外では、労働者のスキルアップや業務改善等による、作業効率のアップによって可能である。
・障害者の強みを生かすことが求められる
・障害者の強みで考えられるのは
①障害者市場というニッチを狙った商品・サービスを展開する
②障害者ならではの視点を生かし、健常者にも求められる商品・サービスを展開する
③障害者にしかできない商品・サービスを展開する。

障害者を雇う効果

・影山摩子弥は『なぜ障がい者を雇う中小企業は業績を上げ続けるのか?』において(中略)「障がい者の能力が発揮されている職場では、健常者社員の精神健康度も仕事満足も高くなる」と結論づけている。
・「障がい者は単体では生産性が低いとしても、健常者社員に正の効果を与えることによって、社内全体の生産性(組織内マクロ労働生産性)を高める効果を持つ」としている。
・健常者が障害者雇用に好意的であることは、障害者雇用の拡大にとって欠かせない条件の1つ。

障害者を戦力とする企業

・楽天グループの特例子会社である楽天ソシオビジネスは(中略)単独黒字を計上している。
・代表取締役社長の川島薫は、自身も障害者であり、『障がい者の能力を戦力にする』において、「黒字経営にできる会社とできない会社の違いは、やる気があるかないか。それだけなんです」といいきっている。
・その方法とは、多様な障害者に対応し、人材育成、すなわち教育することであった。
・もし会社組織がお客様扱いしたり、障害者を雇用することだけを意義あるものとして考えたなら「障がい者の労働に期待していない→人材が育たない→会社が成長しない→社員の給料が低い→社員のやる気がますます減退する→人材が育たない」というようにマイナスのスパイラルを描くことになる。
・川島は優先課題を明確にして「社員に社会人としての自覚を芽生えさせ、能力を引き出し、戦力へと導くこと」としている。
・これは手塚直樹が『日本の障害者雇用』において示している障害者雇用三原則にも合致した内容であると考えられる。
・障害者雇用三原則とは、第一原則「恩恵的に雇用するのではなく、一人の独立した職業人として育成していく」。第二原則「法律によって強制されるのではなく、企業の社会的責任の見地に立って行う」。第三原則「障害者雇用は段階的に行い、問題を解決しながら一歩一歩積み上げていく」
・手塚はこの 三原則は「どの企業にも共通する基本的な考え方であると評価の高かったもの」であるとしている。

○所感

障害者雇用における、生産性や効果については、経営者や人事担当者にとっては関心が高いものと思われます。今回は割愛しましたが、本書では障がい者を雇用する企業が、していない企業と比較して相対的に「パフォーマンスの低さ」があるとの調査結果も示されています。
個性を見極めて、能力が発揮できる環境づくりの大事さも謳われますが、本当にとても難しい課題です。
つい最近、某社でDEIのご担当をされている方とお話させてもらい、とても共感した言葉がありました。「なにが正解かわからないがとにかく一生懸命にやる」といった趣旨のお言葉でした。これは先述の川島氏の「やる気があるかないか」という言葉に通じます。パッションだけでは乗り越えられない壁があることは重々承知しながらも、パッションがないと乗り越えられない壁の方が多いことも感覚的・経験的に理解しています。
一人一人の「自分ごと化」と障がい者の活躍を信じて取り組む「思い」というのは、推進への必要条件だなと思いました。

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