障がい者雇用の「組織内マクロ労働生産性」改善効果/文献調べ 24−32

横浜市立大学の影山摩子弥先生の論文から、表題に関して学ばせてもらいました。
影山先生の論文は、企業における障がい理解、特に「生産性」という最も重きが置かれがちな視点において、さまざまな示唆を与えてくれます。また、我々のような支援者、支援企業にとっても勇気をもらえる内容ですので、大好きですw

以下、抜書きと所感を述べます。(「所感」と「√」は私の考えです)

目次

障がい者と労働生産性

・障がい者は、単体としては、生産性は低いかもしれない(組織内ミクロ労働生産性)が、他の社員にプラスの効果を与え、社内のマクロ労働生産性を高める可能性がある。

※「組織内マクロ労働生産性」
・社員同士が相互に与える影響によって、生産性が上がる点に着目した考え方
・相乗効果に着目したシステム論的概念
・「つながりの効果」を示す、現代的概念

√「ミクロ労働生産性」においては、「能力の低い人」という見られ方がされてしまう可能性があるが、マクロ的な視点で生産性を考えるのは多くの支援者が同調するところでしょう。

※調査
・17社(大企業4社、中小企業13社)
・健常者社員(経営層含む)を対象のアンケート、会社データのアンケート

接触によって認識された障がい者の能力

・(分析の帰結)プライベートと社内接触のいずれにおいても、接触が深い場合、障がい者の能力に関する健常者社員の認識に有意な差。
・生川(2007)も、「接触度が高まると能力を肯定する度合いも高まる」との分析結果を導出。

障がい者との接触と障がい者のパフォーマンス認識

・「プライベートな接触」の場合、接触が深いと、障がい者の能力が認識される。つまりは、深い接触でなければ認識されにくい能力を障がい者が持つことを示している。
・「社内接触」の場合、「社内改善力(障がい者がいることで、ストレスが軽減される。コミュニケーションが活性化する)」以外は認識される。
・「障がい者との接触(両接触の相乗効果)」の場合、ほぼすべての項目で有意な差。

プライベートの接触
社内接触
どちらも

結論

以下を確認した。

1. 障がい者が想定したような能力を持つこと。
2. その能力が認知されるには,プライベートな接触においても,社内での接触においても,深い接触が必要となること。
3. 両接触は,認知上の相乗効果を生むため,相乗効果によって,障がい者 の能力がよりいっそう認知されやすくなること。
√大企業を中心に、「本当のインクルーシブとは」という命題に取り組んでいらっしゃるところが多くなっている印象です。1部署に障害者1名の配置という具体的な目標を掲げているところもあるでしょう。「社内接触」という文脈では正しい組織設計の方略だと思います。

障がい者パフォーマンスの客観的検証

・(帰結)障がい者のパフォーマンスが認識されている場合、健常者社員の精神健康度を改善し、仕事満足度を向上させる。また、社内改善力が認識されている場合、業績が良いこと。仕事満足度が高い場合、業績が良いことが明らかに。
・パス解析の結果、以下が確認された。

まとめ

・社員の職務満足や精神健康度、会社の業績に対して影響を与える要因はさまざまであることに加え、障がい者の能力は、深い接触でなければ気づかれない性質。
・接触度が高くなければ容易につかめない効果であるが故に、法定雇用率を課さねば取り組みが進まない一方で、障がい者の能力に気づいた企業は,規模の大小や業界の相違とは関わり無く、障がい者雇用に取り組んできた。
・経営上の成果に導くには、シナジー効果を地道に積み重ねることが必要。
・「組織内マクロ労働生産性」改善効果は、シナジー効果に着目した組織設計を行わなければならないことを端的に示す。

所感

企業によっては、障がい者が集合的に業務にあたる専門部署を設けている。清掃や器具のメンテナンスなど、他部署から業務を請け負い、直接出向いて仕事をします。はじめから「社内接触」を企図していたわけではないのでしょうが、結果的に「障がい者ってこんなこともできるの?」「助かります」といった声をもらっているようです。影山先生が言われるような「組織設計」の好例だなと感じています。

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