感謝と称賛は、障害者雇用現場に必要なのか②/文献調べ25-18

前回に続き、『感謝と称賛 人と組織をつなぐ関係性の科学 (正木郁太郎,東京大学出版会 2024)』を抜書きしながら、障害者雇用現場での「感謝と称賛」の必要性や応用について考えてみます。
(第5章〜第8章の抜書き)
感謝行動と対人的な援助行動の関係
・「文脈的パフォーマンス」とは、組織が適切に機能するために必要な貢献を果たす様々な行動を指す概念(Borman & Motowidlo,1997;池田・古川、2008;田中、2012)で、狭義のパフォーマンスを指す「課題的パフォーマンス」と対をなしている。
・具体的には「人一倍努力する」「自分の役目ではない活動にも取り組む」「他者を助け、協力する」「個人的に不便でも組織の規則や手続きにきちんと従う」「組織の目標を支持・支援し守る」(田中、2012)
・感謝を表明する経験と受ける経験のどちらにもワーク・エンゲイジメント、援助行動に対する正の効果が見られた(日常生活を対象とした研究と共通)
・感謝を多く表す人は、同時に誰かから感謝を多く受ける傾向
・感謝の表明と受領の頻度が共に増すほど、(どちらを従属変数にしても)ワーク・エンゲイジメントと援助行動も増加していた。
・職場内で感謝が「循環する構造」や、助け「合う」ことが重要。「私は感謝しているし、周りも感謝してくれる」という釣り合いが非常に重要
実践的な含意
・感謝行動は日常生活だけでなく、職場でもワーク・エンゲイジメント向上や同僚間の助け合いの促進に寄与する可能性がある
・感謝行動は誰かが一方的に送るだけでなく、職場で互いに交わすことで更なる効果を発揮するものと考えられる
感謝の多様な効果
▷職場のメンバーに対する信頼_同じ職場のメンバーたちに対して好意的・ポジティブな期待を抱いており、かつそれに確信を持っている状態・態度を指す(de Jong & Elfring,2010)。自分が主語であり、自分が他者のことをどう思うか等「感情」が重視。
▷職場のメンバーの関係の近さ_自分と相手の二者間に強い絆があるかどうかという「関係性」に焦点を当てた考え方(Locklear et al., 2021)
▷向社会的モチベーション_「他者のために何かをしたい」というモチベーション。道徳感情理論では、感謝の感情や行動は向社会的モチベーションを喚起する。職場が円滑に機能するためにも重要(Grant, et al.,2008;シン・島貫,2021)
▷社会的影響力の近く_部下が他人から感謝を受ける経験をすることで、自分が他人や社会によい影響を与えられると感じるようになり(社会的影響力の知覚)、それが次の主体的行動を促す(Grant & Gino、2010)
▷組織支援の知覚(perceived organizational support)_「組織は従業員の貢献を評価し、従業員のウェルビーイングを気にかけてくれている」と感じるかどうかを指す概念(Eisenberger et al., 1986)。道徳感情理論(McCullough et al., 2008)の通り、感謝には自分が受けた様々な利益や恩に対する注意を促す機能がある
実践的示唆
・感謝を交わす経験は様々な面で職場を活性化、改善する可能性がある
所感
気になった箇所だけを抜書きしました。(読んでいる方にはわかりづらかったかもですね。すみません)
興味深いのが、感謝は「言う」側であって、ワーク・エンゲイジメントや援助行動に正の効果があることです。
「言ってもらう」側の効果は体感的に理解できますが、「言う」ことでも「自分は感謝ができる人間なんだ」といった正しさへの認知や心地よさなどが喚起されるのだと思います。
とは言え、職場では「感謝してもしても、言ってもらえない」という状況は発生し得ます。
障害者雇用の現場でも、障害者社員を育成する立場の方からの「支援しても『ありがとう』を言ってもらえなくて、虚しくなる」というお声を聞いたことがあります。
感謝を表明する・受領するという双方向のコミュニケーションが促されるような仕組みづくりの大切さが本書でも示されていましたが、障害者雇用の現場も同様だなと感じました。
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