包摂的労働市場とは/文献調べ25-49

「包摂的労働市場の理念と現実 ー障害者雇用制度を取り巻く国際比較と日本の課題ー」(東京大学先端科学技術研究センター、近藤武夫先生、2025)から、個人的に気になった箇所を抜書きさせてもらいながら、考えてみます。
(枠囲み、もしくは「・」が、引用箇所)
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就労には、以下の3つの側面があるとしています
第一に、生活保障を支える基盤
第二に、社会保障制度にアクセスするための接続点
第三に、社会参加するための主要な手段
・障害や疾患のある人にとって、これら3つの要素は、健常者とは異なる様相を持つ
・障害者雇用をめぐる政策や理念を考える際には、これら三側面のバランスを精査する必要がある
フルタイムに近い形で、ジェネラリスト的な働き方に応じることで、生活保障と社会保障が得られる形という点で、障がい者にとっては就労の道が”閉ざされやすい構造”になっていると指摘しています。
国際的理念の変遷としては、下記を整理されています。
国際労働機関(ILO):障害者の職業リハビリテーションと雇用機会の確保、ディーセント・ワークの概念
国連障害者権利条約(CRPD):「開かれた、包摂的で、アクセス可能な労働市場」で働く権利
主流かつオープンな労働市場で、労働の機会と働き方をどう担保するかが重要な論点
日本の現状について、障がい者、生活困窮者の側面を挙げられています。
障害者雇用率制度
・制度の対象が、「障害者かつ障害者手帳保持者」に限定
・メンバーシップ型雇用に準ずる形の雇用促進に特化
・フルタイム以外の多様な働き方を必要とする人々の包摂や、キャリア形成を図り労働市場の主流で高い成功を収めるための支援については、今後期待されるところ
生活困窮者自立支援制度
・障害者雇用率制度とは別個の運用。連携が極めて限定的
日本の制度の問題
・「障害」と「生活困窮」の両制度に収まりにくい就労困難層を包括的に支援する仕組みが乏しい
2つの問題点が指摘されているかなと思います。1つは、障害者と生活困窮者の連携のなさ、もう1つが、制度に含まれない就労困難層の存在。さらにもう1つが、働くことを生活保障におくか、キャリか形成におくか。
日本における萌芽的実践
・超短時間雇用モデル、東京都ソーシャルファーム認証事例、ニューロダイバーシティ雇用、高等教育からのキャリア移行支援
ニューロダイバーシティ雇用
・国際的にはSAPが2013年開始
・「ニューロダイバーシティ(神経学的多様性)」のある人材の、弱みや機能制限に注目するのではなく、強みの部分に注目して、主流かつ競争的なキャリアでの採用を促進するもの
・日本ではオムロン株式会社の「ニューロダイバーシティ採用」など、
・高い専門性を活かせる職務等を設定し、障害のある個人のストレングスやスキルと接続することで、労働市場の主流でのキャリア形成を目指した、企業主導の支援の実践例
今後の展望
・障害者雇用率制度のインセンティブに依拠しない新しい制度的インセンティブ(財政支援,税制優遇,優先調達など多様な選択肢)もまた、普遍主義的な包摂の視点から再整備されることが期待
所感
雇用の質の重視により、障がい者のキャリ形成を支援する動きがみられます。一方で、就労に結びつきにくい人たちもまだまだ多くいるという実感もあり、量における課題にも目を向け続けなねればなりません。ただしそれには個社の努力では到底充足できないものがあるため、国レベルでの制度設計が期待されています。まさに仰る通りだなと、じっくり学ばせてもらいました。ありがとうございました。
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