一般就労した知的障害者の就業意識に及ぼす影響とその要因 ―リアリティ・ショックに焦点をあてて―/文献調べ24-39
昭和女子大学の根本治代先生の2014年の論文から学びになった部分を抜書きさせてもらいます。
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・目的として、就労でのリアリティ・ショックが知的障害者の就業意識にどのような影響を与えるのか,再び就労への移行を目指すうえで求められる肯定的な自己評価はどのような支援によって生じるのかを,離職後継続的に支援した事例の分析をとおして明らかにしていくこと
・知的障害者の通算の雇用期間は6ヶ月未満が28%、6ヶ月以上1年未満が28.0%、1年以上3年未満が24.7%で、全体の半数以上が6ヶ月以上3年未満まで定着(埼玉県産業労働部,2011)
・離職に関する問題は定着支援期間の6ヶ月を超えた範囲で生じている
・離職者の障害種別では知的障害者が44.8%で最も高く、年齢は20-30代の若年層が70%・(埼玉県産業労働部,2011)
・知的障害者の一般就労を阻害する要因として、精神的・心理的支援の必要性が指摘されてきている(障害者職業総合センター,2001)
・リアリティ・ショックについて「ある組織への参入者が、参入する以前に抱いていいた理想と参入後の現実とのギャップに出会うことで陥る心理状態」(Schein,1991)
・ネガティブな側面とポジティブな側面との両義的な意味を含む概念
・自分の認知している現実の自己と自らが考える理想の自己とのギャップが大きい場合、自己肯定感は低下する(Popeら,1988)
・知的障害者の場合、就労上のリアリティ・ショックはさまざまな場面での対峙関係、職務能力等における躓きが失敗経験として生じ、その多くはネガティブな側面として否定的な自己評価へとつながる。
・自己肯定感に与える要素には、重要な他者からの肯定的評価、自己のふりかえり、他者からの受容的態度、共感的な理解が求められる(宇野,2013)
・就労における障害者のリアリティ・ショックは「職業的な発達課題に対する成功や失敗を取り込んでいく一連の学習過程」(松為ら,2007)
・リアリティ・ショックを解明することで本人の自己理解や職業生活の見直しなど職業的な発達課題に向き合うプロセスととらえることができると考えた
○研究方法
・就労移行支援事業所2か所
・離職経験のある利用者、家族、支援者
○結果と考察
・中長期的な離職の代表的なリスクとして①習熟・慣れによる課題②職場の変化③生活環境の変化④心身の健康状態など、個人要因によるもの(松為ら,2007)
・それ以外に、企業による都合として、事業規模の縮小、倒産等によるリストラ、解雇の結果離職に至るといった環境要因
・結果から得られたコーディングを「リアリティ・ショックにおける本人の就業意識の変化とその要因」として、就業意識の変化を示したのが下図
・リアリティ・ショックからの回復には、就労支援サービスでの日々の活動における就労支援者や利用者同士の感情の交流を通して、離職後に生じた課題を継続的に解決するプロセスが必要
・離職前後の本人の体験に注目し、本人が感じる社会との相互関係から生じる不利益に対して、ともに向き合うことで支援の方向性が明らかにできると考えられる
○所感
知的障害者がリアリティショックにより心身のバランスが崩し、就労意欲が低下していくことに対する支援を考察したものでした。「新天地を求めて」という言葉に代表されるよう、離職には一般的にポジティブなものも含まれるでしょうが、ネガティブな離職(職場不適応)は、長期的な就労意欲の低下や引きこもりなどにつながる恐れもあるという意味では、離職前後の支援のあり方を示した非常に価値ある研究です。ありがとうございました。
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