ポジティブおよびネガティブ・フィードバックが部下のコミットメントおよび成長満足感に与える影響:上司に対する信頼による媒介効果の検討
繁桝江里(2017)
問題
・上司のインフォーマルなフィードバックについて、日常的な頻度が部下に与える効果を検討
・フィードバックの特性として最も基本的で重要なのが「評価がポジティブかネガティブか」(Ilgen,et al.,1979)
・PF(ポジティブなフィードバック)およびNF(ネガティブなフィードバック)が部下に与える影響の違いを解明するため、その効果が生じるプロセスの媒介要因として「上司に対する信頼」に着目。
・上司がフィードバックを行うことによって、上司に対する部下の信頼が高まり、その信頼が部下に効果をもたらすというプロセスをモデル化し、PFとNFは信頼との関連の仕方が異なることにより、部下に与える効果が異なるという仮説を検討
1. ポジティブおよびネガティブ・フィードバックの効果
・Podsakoff, Bommer, Podsakoff, & MacKenzie (2006)のレビュー論文では
・上司の報酬、懲罰行動と受け手の仕事における役割の明確さや仕事に対する態度など28の指標に対するメタ分析
○報酬行動について
・上司が即応的な行動を行うと認知されるほど指標のほとんどを公的的な方向へ
・非即応的な報酬行動(部下のパフォーマンスが良くても悪くても報酬を与える)と認知される場合_指標を高める効果はよわくなるか優位ではなくなる_役割の明確化や職務満足感、昇進機会に対する満足感を低めるというネガティブな効果
○懲罰行動について
・上司が即応的な懲罰を与えると認知されるほど、役割の明確化や上司に対する信頼、グループレベルのパフォーマンスなど、指標の半数を高める_その効果は即応的な報酬行動と比べると弱い
・非即応的な懲罰を与えると認知される場合、ほぼ一貫して各指標を弱める
・Judge & Piccolo(2004) はリーダーがメンバーの役割行動に対して報酬や懲罰を与えるという交換関係の即応的報酬、能動的霊が管理、受動的例外管理の3次元の効果をメタ分析
・即応的報酬はフォロワーのリーダーに対する満足、モチベーション、リーダーの効果性などの変数と強い相関
・能動的例外管理はこれらの変数と弱いながらも正の相関
・受動的例外管理は各変数と弱い負の相関もしくは無相関
・本研究ではフィードバックを「良い、または、悪いところを指摘する」という日常的に行う指摘の頻度として測定_上司がPFをすればするほど、また、NFをすればするほど、部下にポジティブな効果を与えるかどうかを検討。
2. フィードバック効果の媒介要員としての「上司に対する信頼」
・フィードバックの効果の媒介要因として「上司に対する信頼」に着目
・信頼という概念は、
▷信頼しやすいという「特性」
▷特定の相互作用によってこうちくされたり崩壊したりする創発的な「状態」
▷行動や態度または関係性を強化したり弱化したりする「プロセス」
の3つの捉え方(Burke, Sims, Lazzara, & Salas, 2007)
・本研究では、創発的状態としての信頼
・信頼の定義は「相手を信頼する意図」という直接的なものから、信頼を下位概念に分けるものまでさまざま
・多くの定義は「他者の意図や行動に対する肯定的な期待に基づき、自己の脆弱性を受け入れる意図をもたらす心理状態」(Rousseau, Sitkin, Burt, & Camerer, 1998)
・フィードバックが部下に与える影響におけるしんらいによる媒介効果はPFにもNFにも生じると予測
・相手を信頼するという包括的な肯定的期待と、それに伴うリスクを受け入れるという脆弱性の受容を含む心理状態として信頼を定義
3. 「上司の信頼性」に対するフィードバックの効果
・Mayer, Davis, & Schoorman(1995) は信頼の先行条件として「信頼性」を定義_信頼される側の特性である信頼性と、新羅宇する側の特性である信頼傾向によって構築
・「信頼性」には3つの側面
▷能力の信頼性_上司の職務遂行における能力や専門性
▷誠実性の信頼性_上司が、部下が受容できるような倫理的原則に沿って、一貫性ある行動をする
▷慈善性の信頼性_上司が部下の幸福のために行動
4.本研究の仮設モデル
・PFは信頼性の3つの側面を全て高める
・NFは能力への信頼性のみを高める
結果
・上司のPF頻度が高いほど能力、慈善性、誠実性という信頼性の3つの側面の評価が高まり、上司に対する信頼が構築され、部下のコミットメントと成長満足感が高まる
・上司のNF頻度が高いほど能力の信頼性が高まることにより、上司に対する信頼が構築され、成長満足感が高まる
・PFおよびNFが部下に与える影響における信頼性および信頼による媒介効果が確認
考察と今後の課題
・PF頻度のポジティブな効果がNF頻度よりも強く示される
・より多くPFするというコミュニケーション頻度の高さもPFはポジティブな効果をもたらす
・部下のコミットメントと成長満足感を高める直接効果も示される_自己に与えられた肯定的な評価は、上司への信頼構築以外のプロセスによっても、職場での適応感や職務への満足感を高める
・NFの頻度は上司の能力の信頼性を高めることによる媒介プロセスにおいてのみ、部下にポジティブな効果_課題志向的な側面に対してはポジティブな効果。それ以外の側面ではポジティブでもネガティブでもない。
・悪いところを指摘することの悪影響に配慮する必要性はあるものの、過度に懸念し回避するのではなく、NFがポジティブな効果をもたらす条件について積極的に検討していくことの意義を主張できる
・悪いところを指摘されるのは自己イメージへの脅威(Ashford & Tsui, 1991) _脅威をもたらす行動を頻繁におこなうじょうしから慈善性を読み取るのは難しい
・Zeffane, Tipu, & Ryan(2011) 「コミュニケーションが信頼を高め、信頼がコミットメントを高める」という因果の方向がその逆よりも妥当
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