ダイバーシティ・マネジメントと障害者雇用の論文レビュー/24-37

有村先生の論文から、ダイバーシティ・マネジメントと障害者雇用の整合性について、論文を抜書きさせてもらいながら考えます。

目次

ダイバーシティ・マネジメントと障害者雇用は整合的か否か(有村,2014)

・ダイバーシティ・マネジメントの創始者ルーズベルト・トマス(1991,2010)をてがかりにダイバーシティ・マネジメントと障害者雇用の整合性についての答えを導き出す目的
・ダイバーシティ・マネジメントとは「すべての従業員の潜在能力を活かす職場環境作り」
・職場環境づくりを人権尊重や法令順守、企業の社会的責任のためでなく「競争優位や組織パフォーマンス向上のため」(谷口2005;有村2007)に行う。
・「多様な人材」や「すべての従業員の潜在能力を活かす職場環境づくり」ここだけに着目すれば、ダイバーシティ・マネジメントと障害者雇用は非常に整合的である。しかし、これに「競争優位や組織パフォーマンス向上のため」という条件が加わると途端に整合的とは思えない。そんな曖昧な関係にある。
・「経営的視点」「既存の組織文化と制度の見直し/変革」「普遍化」がダイバーシティ・マネジメントとは何かを理解する上での重要な3つのポイント

・ダイバーシティ・マネジメントにおいて最も重視されるのは「既存の組織文化と制度の見直し/変革」である。
・多様な労働力のフル活用に適した職場環境を構築していく。
・ただし、既存の組織文化と制度を見直し、変革することは、激痛をともなう極めて困難な課題であるので、ダイバーシティ・マネジメントにおいてはトップの強いリーダーシップや長期にわたるコミットメントが求められる。
・トマスが最も重視したのも「既存の組織文化と制度の見直し/変革」
・この激痛にどのようにして立ち向かわせるのか。
1つは勇気を与えること、もう1つは激痛を少しでも和らげること(勇気を与えるのが「経営的視点」、激痛を和らげるのが「普遍化」)
・「経営的視点」に捉われすぎると、
▷ダイバーシティ・マネジメントは従来型多様な人材管理方法よりも「優れている」/「有益である」などと価値判断を下しがち
▷従来型多様な人材管理方法を「排他的」或いは「独立的」に扱ってしまう可能性
▷動機としての「経営的視点」を結果としての「経営的視点」に履き違えてしまう可能性
・ダイバーシティ・マネジメントの先駆と称されるような企業には、その結果を検証したり、追跡調査したりすることにこだわらない企業が多い。
・ダイバーシティ・マネジメントとは、あくまでも「すべての従業員の潜在能力を活かす職場環境づくり」であり、そのために不可欠な「既存の組織文化と制度の見直し/変革」、これに向かわせるための同期ならば必ずしも競争優位や組織パフォーマンス向上などの「経営的視点」にこだわる必要はない。
・「障害のない社員や管理職・経営陣の無知・無関心と障害のない社員向けにデザインされた物的環境と制度の見直し/変革」が絶対に不可欠
・ダイバーシティ・マネジメントと障害者雇用は整合的である。これが本稿の答え
・日本企業が今後ダイバーシティ・マネジメントとして障害者雇用を推進していくためには「普遍化」が一つの重要な鍵になるかもしれない
・障害者雇用においては「人権尊重・社会的責任・法令遵守か、それとも経営的視点か?」といった二律背反的思考ではなく、双方がともに不可欠であるという発想が必要

日本企業とダイバーシティ・マネジメント -障害者雇用の観点から- (有村,2008)

・ディスアビリティ・スタディーズとダイバーシティ・マネジメントの類似性に着目
・ダイバーシティ・マネジメントを日本に伝える試みは1990年代から始まっている(今田,1992;吉沢,1994;有村,1999)
・2005年以降・・・パフォーマンス向上こそがダイバーシティの究極の意義であるとした上で「個を活かすダイバーシティ戦略」を日本企業に提言・・・具体的には他人と同じ意見・見解であることに安心しがちな日本人の文化的気質を改め、個々人が自分なりの意見・見解を組織や集団の中で自由に表明していくことができる・・・ことを意味している。
・個々人の多様な意見・見解が組織や集団の知のシナジーとなり、ひいては組織・集団のパフォーマンスを向上させる。
・しかし「パフォーマンス向上」や「競争優位」の側面にばかりとらわれると、かえってダイバーシティ・マネジメントの特質が見失われる危険性がある。特に日本国内においては、この可能性が高い(有村,2008,2009)
・「すべての従業員に有効に機能する環境」は「すべての従業員が自身の潜在能力を十分に発揮することができる環境」と置き換えることも可能で・・・当該環境はダイバーシティ・マネジメントにとって決して変えることのできない所与の目標/達成すべき結果であり、だからこそ「企業の成功」と「機会均等」の双方実現が可能となる
・ダイバーシティ・マネジメントのもう一つの特質は、個人よりも組織自体の変革を重視するという視点/姿勢が「すべての従業員に有効に機能する環境」作りに不可欠となることである。
・この特質は・・・Thomas R.(1991)が明確にした・・・ダイバーシティ・マネジメントの6つの特徴
①個人・対人関係・組織の三次元同時アプローチ
②経営的視点
③ラインマネージャーの学習(役割変化)
④多様性を広く捉える
⑤個人と組織の相互適応プロセス
⑥企業のあり方(ウェイ・オブ・ライフ)
の抜本的改革の中の①⑤⑥に共通する要素である。(有村,2009)
・環境づくりにおいて個人よりも組織自体の変革が重要になるという視点や認識の欠如・不足がいちばんのボトルネックではなかろうか。
・ディスアビリティ・スタディーズでは、(障害は)社会が生み出した問題(ディスアビリティ)である以上は、社会自身がこの問題解決の責任を負うのは当然であり、優しさや福祉、慈善などの発想は、問題を引き起こした当事者のすることではないと主張しているのが障害の「社会モデル」である。
・ディスアビリティ・スタディーズは・・・「異化&統合」を目指している(杉野,2007)

日本のダイバーシティ・マネジメント論(有村,2008)

・米国発ダイバーシティ・マネジメントは、競争優位や競争力強化のために多様な人材を活かすと謳ってはいるが、決して法令順守自体を否定しているわけではない。むしろそれを越えようとしている。
・日本国内においては、法令順守とダイバーシティ・マネジメントを並存させる「ANDの発想」が是非である。
・「組織パフォーマンス向上との関連性はまだきちんと証明されていないが、それでも米国企業は必ずや競争優位や競争力強化につながっていくとの信念のもとでダイバーシティ・マネジメントに取り組んでいる」これこそが日本の社会や企業に伝えるべきメッセージ

所感

障害者雇用を企業で推進する中では「障害の社会モデル」への理解が必要となります。障害を「自分ごと」と捉え直す「普遍化」をしつつ、社会・会社側の「障壁」について知る。ダイバーシティ・マネジメントで最重要しされている「組織変革」を起こす前提として、障害者雇用への理解は有村先生もそう述べられている通りに、とても整合的であると感じています。

一方で、先生も何度となく言及されている「経営的視点」は、企業として切っても切り離せない要素です。「すべての従業員に有効に機能する環境づくり」に向けた自組織の見直しを促すには、企業ごとの課題に目を向けながら、先生がおっしゃる「長期継続的視点」での取り組みにより「だから我々は強くなれるんだ」というストーリーは必要だろうなと感じました。

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