インクルージョン風土と他者支援の関係/文献調べ25-43

インクルージョンな組織の風土は、他者を支援する行動に影響しているのか。
今回は、「インクルージョン風土と他社支援行動 -Conservation of Resources 理論の観点から-」(佐藤,2025)を抜書きしながら考えてみます。
定義
論文では「概念定義」として整理されている、扱われている言葉の定義をご紹介します。
インクルージョン風土
会社が従業員をどの程度公正に扱い、個々の違いや意見を尊重し、意思決定に積極的に関わらせているかについての個人の知覚(Nisshi,2013)
他者支援行動
会社の同僚や会社のためになることを意図した個人による裁量的な行動(Lorinkova & Perry,2019)
補足として以下が示されています。
個人が自分の仕事をこなすことに加えて、遅れている同僚に手を貸すといった行動や同僚の代わりに遅くまで残るなどの同僚を助けるためにどの程度の時間と労力を費やすかを表している
心理的安全性
この論文では、”個人レベルに注目しているため”、
提案や懸念を率直に口にするなどのリスクを伴う行動をとっても上司や同僚などが罰したり誤解したりしないと個人が信じる程度(Liang et al., 2012)
資源の利用可能性
自分の仕事を効果的に遂行するために必要なあらゆる資源を必要な時にどの程度利用することが可能であるかを表す概念(Spreitzer,1996)
またこの論文では、COR理論からインクルージョン風土の他者支援行動への影響メカニズムについて解明しようとしています。そのため、COR理論についてもわかりやすい説明がされています。
COR理論
組織行動論の中でストレスやバーンアウトだけでなくモチベーションを理解するための理論的基礎(Halbesleben et al., 2014)
基本的な考え方として
人は自分が中心的に価値をおくものを獲得、保持、育成、保護しようと努力するもの
ということのようです。
COR理論における資源とは物的資源(家や車など)、条件的資源(他者との良好な関係など)、エネルギー資源(時間、知識など)、個人資源(自己効力感、自尊心など)(Hobfoll et al., 2018)が想定されています。
目的と結果
目的は、冒頭に示した通り「インクルージョンな組織の風土は、他者を支援する行動に影響しているのか。」について調べているものです。
300人以上の規模の企業に勤務する大卒以上の正社員を対象に調査を実施された結果について、大まかに整理してみます。
・インクルージョン風土は心理的安全性を介して他者支援行動に肯定的な影響を及ぼすことが明らかになった
・資源の利用可能性が心理的安全性の他者支援行動への影響のみならずインクルージョン風土の心理的安全性を介した代謝支援行動への影響を調整することが明らかになった


所感
COR理論の資源をもとにインクルージョン風土と他者支援行動についてメカニズムを解明するという切り口がとても興味深かったです。
障害者雇用に当てはめて考えると、
・障がいのある社員が所属感を感じる業務設計や風土作り(健常者社員との関わりの創出など)
・関係の質にコミットしたマネジメント
・「ほめ」を用いた業務指導や振り返り
などが考えられるでしょうか。これは、なにも障害者に対して健常者が支援的になってもらうということを意図したものではなく、職場全体が支援的・サポーティブなるためのヒントだと捉えています。
ILCさんでインクルージョンについて学んでいる立場としては、興味深い論文でした。ありがとうございました。
コメント