【コラム】障害者の採用・定着施策が、若手のリテンションにつながる?ー「二要因論」で入社・離職理由を整理ー

障害のある方を対象とした会社説明会や面接会に同席させてもらうと、参加者からよくもらう質問があります。
「自分と同じ障害の人はいますか?どんな仕事をしていますか?」
皆さんも耳にされたことがあるかもしれません。
会社さんによって、自社で働く障害のある人の割合を障害種別に示したり、活躍事例を写真付きで紹介したりと、さまざま工夫をしてお伝えされています。
僕は、事例をお伝えするのと同じくらい、”なぜ問うのか”を考えることも大切だと思っています。今回はそんなお話を。
障害のある人の入社理由
障害のある求職者が、就職を決めた理由の上位は
「職種・仕事内容」
「障害への配慮・理解」(障害者職業総合センター,2020)
です。
「仕事内容」と「障害への理解や配慮」は一見すると別モノですが、前出の問いの背景を考えると、深く繋がっていることに気づきます。
障害のある人はこれまでの生活で、社会にある制度・慣行・観念などが壁となり、”機会の喪失や排除”(星加,2003)を感じてきました。
「機会」とは、社会経験を通じて「自分ならできる!」という自己効力感を育む、きっかけのことかもしれません。
問いの背景には、
「現時点で自分にできることは限られているかもしれないけど、障害への配慮や理解があれば「できること」を少しずつ拡げられるはず。御社には、そういった環境がありますか?」
そんな、不安と期待が入り混じった感情を、言葉にして確かめようとしているのでは?と思うのです。
ハーズバーグの二要因論(Herzberg,1959)でいう「衛生要因」についての問いであり、このケースでは「不満足の低減」ではなく「不安の緩和」をはかっているのだと思います。
入社理由に対する会社の対応
では会社として、この問いにどう向き合えばいいのでしょうか。
あくまで僕の考えではありますが、「共感的な姿勢」と「支援的な姿勢」を示すことだと思います。
「自分と同じ障害の人が働いているのかどうか、心配になりますよね(共感的な姿勢)。現時点で、同じ障害の方はいらっしゃらないのですが、別の方の例を紹介します。その方は、働く上で○○に困難さを感じておられましたが、上司・人事などが連携して○○といった対応をし、今は○○の領域で頑張っておられます(支援的な姿勢)。」
新卒学生の会社を選ぶ理由
一方で、新卒の学生さんたちは何をもとに会社を選んでいるのでしょうか。
調査対象によって結果にばらつきはありますが、
「自分のやりたいことができるか」
「成長する機会があるか」
「自分の市場価値を高められるか」
といった、「二要因論」の『動機づけ要因』を比較的重視しているように感じます。
(あくまで私自身が現場でお会いしてきた方々の印象で、相対的にそうした傾向があるように思うというものです)
会社を辞める理由
会社を選んだ理由を見たところで、反対に、会社を辞める理由についても見てみましょう。
障害のある方に、「こういう措置や配慮があれば離職しなかった」というものを聞いた調査(障害者職業総合センター,2020)では、
「調子の悪いときに休みをとりやすくする」
「能力が発揮できる仕事への配置」
「 職場でのコミュニケーションを容易にする手段や支援者の配置」
が上位でした。
(「特にない」を除く全障害種での結果。)
辞める理由も『衛生要因』のように見えます。
(「能力が発揮できる仕事への配置」については、障害のある人=切り出し業務という職場文化が、不満要因につながっているように思われます)
では、新卒入社や入社3年目までの若手社員たちが、離職を考える理由はなんでしょうか?
調査機関によって多少の違いはあるものの
「労働条件」
「給与水準」
「職場の人間関係」
「上司との関係」
といった項目が上位に挙げられています。
これらは『衛生要因』に分類されるもののように感じます。
整理してみると、
- 障害のある方は会社を選ぶ理由も離れていく理由も『衛生要因』を重視する傾向がある
- 新卒で入社する方々の多くは、やりがいや成長などの『動機づけ要因』に惹かれて入社しつつも、離職を考えるのは『衛生要因』の影響が大きい。
と言えるのではと考えています。
環境整備と離職防止
こうした視点から見ると、「合理的配慮」の提供における障害のある人との『建設的な対話』による環境整備は、対話の文化や柔軟な対応が根付くきっかけとなり、それらが若手のリテンションも含めた働きやすさや安心感にも繋がっていると考えられます。
求められるのは、”個別的対応の中にも共通点を見出していくという「普遍化」の発想”(有村,2014)です。
会社全体における働き方、制度、組織文化の変革が、社員のリテンションにつながり、めぐりめぐって経営成果を生む。そんな関係性を感じています。
まとめ
「合理的配慮」や環境整備というと、特別な対応という印象があるかもしれません。
でも、それが若手や多様な社員の定着にもつながっているかもしれないと考えると、全社的に取り組む意義がより見出せるのではないでしょうか。
今回は障害のある人が会社を選ぶ理由から話を始め、ハーズバーグの「二要因論」を参考にしながら、会社の環境の重要さについて再考しました。
少しでもご参考になっていると幸いです。

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