今週は合理的配慮に関する論文を2本ご紹介。
日本における「合理的配慮」の位置付け (長谷川,2014)
・促進法の13年改正により、障害を理由にする差別の禁止という新たなアプローチが加わることとなった。
・1990年にアメリカで「障害をもつアメリカ人法」(Americans with Disabilities Act of 1990「ADA」)が注目を集め、次第に各国に取り入れられたもの。
・2006年には国連により「障がい者の権利に関する条約」が採択。
・日本は2007年に署名し、批准に向けた本格的な議論を開始。
・2011年に「障がい者基本法」が改正され、障害を理由とする差別禁止と、合理的配慮の提供等が定められた。
・次いで、差別の禁止の基本原則を具体化するため、「障害者差別解消法」が2013年に制定。
・雇用分野については、「障がい者雇用促進法」が改正。(①障害を理由とする雇用差別の禁止②合理的配慮の提供義務③苦情処理・紛争解決援助の規定が新設
・国内法の整備を経て、2014年1月の障害者権利条約に批准、2月に発効。
・差別禁止のアプローチの特徴は、障害者を権利の主体として捉える
○雇用促進における合理的配慮
・募集・採用の局面と、採用後の局面とに分けて定められている。
・条文上では「合理的配慮」の文言は用いられず、募集・採用時については「障害の特性に配慮した必要な措置」、採用後については「障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行うものの配置その他の必要な措置」と定められている。
・「過重な負担」を及ぼす場合には、事業主は提供義務を免れる。
・事業主は障がい者の意向を十分に尊重しなければならず、障害をもつ労働者からの相談に応じるための体制整備を行わなければならない。
○日本的雇用システムと合理的配慮
・欧米諸国では採用時から職務が固定。
・本質的機能の中身が明確。
・長期雇用慣行や年功的処遇等を特徴とする「日本的雇用システム」においては、(略)職務遂行能力を測ろうとも「職務」自体が不明であり、かつ、どの職務について合理的配慮を行えば義務が充たされるのか明らかでないことが多い。
・合理的配慮を「障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な」措置ととらえ、その提供を事業主の義務と位置付けた。
・合理的配慮を行わないことが差別であり、平等を実現する手段と位置付けるアメリカとは必ずしも同じでない。
・日本では、厳格な解雇権濫用法理や安全配慮義務の存在により、すでに働いる労働者が中途で障害を負ったような場合には、解雇回避の措置として広範な対応をするよう使用者に求める傾向にある。
・合理的配慮の内容を決定するにあたって、従来の裁判例は参考にされるべきである。
職場における合理的配慮の法的構造 (青木2019)
○日本法への示唆
・雇用促進法ではADAのような的確性に関する明文規定はない。
・職務限定なく中途障害を抱えた労働者の場合、具体的現実的な一定程度の能力が要求。
・ADAの的確性と共通の素地。
・合理的配慮の提供につき最も難解であるのが、その内容の特定。
・要件事実はADAでのprima facie case の立証とも合致して、「申し出」と「インタラクティブ・プロセス」が重要な要素。
・合理的配慮の法的構造につき、労働者からの勤務配慮の申し出を合理的配慮の請求権として位置付け、この請求について使用者は応答義務を負い、インタラクティブ・プロセスを通じて合理的配慮が具体化される結果、特定の法的地位を獲得するものと考えられる。
○一言所感
合理的配慮の内容について具体的事例の提示が求められることもありますが、個別性・経済性などの要素が強いため、一律に「こうしてください」と言えない難しさ、もどかしさがあるのは確かです。
今後、「合理的配慮」の言葉と意図が浸透することで、さまざまな事業所での創意工夫が好事例として蓄積していく(既に多く存在していますが)ことを期待しています。
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